帰ってきたスキーヤー3
僕は スキーが うまいわけではない
かっこよく滑るスキーヤーに 憧れていたのだ
高校三年生の冬、本来 受験勉強 ど真ん中のはずであったが 僕は スキー場に いた。
推薦で 早々に 進学先が 決まっていた僕は 高校が 受験の為に 休みになる2月、 1カ月ほど 新潟 妙高高原スキー場近くの民宿に バイトにいった。
観光協会から 発行される無料リフト券を 手にいれ バイトの合間をみて スキー場に 通った。
でも スキーを まともにしたことがなかったし バイトの合間なので スキー教室にも 入れない。
剣道部で鍛えた体力まかせに 毎日 格闘していた。
ある日 民宿に 観光協会から 電話がかかってきた。電話は 僕が取った。
「予約なしで きた方が ひとり 宿を 探しているんだけど お宅 今日空いてる?」
僕は バイトの身なのだが すぐ 返事をしなければならなかったので オーナーに 断りもせず その客を 受け入れた。
歳は 80歳前後のやせたお爺さんだった。スキーの道具と 少しの荷物しか持っていなかった。
宿の予約もせずに スキー場にやってきて もし 泊るところが なかったら どうするつもりなんだ
しかも 連泊していくという。
次の日 そのおじいさんは 古いスキー板を 担いで スキーに出かけた。
昼ごはんを 宿で 食べると いったので 昼ごはんの準備もしなければならず 僕は スキーを練習する時間が 少なくなってしまうので 頭に来ていた。
夜 他の客たちは 部屋で くつろいでいたが その お爺さんは ひとりで さびしいのか ロビーに来た。 野沢菜をつまみに お茶だったか お酒だったか 忘れたが 出してくれという。その場の流れで 僕は 話相手を することになった。
「にいちゃん 明日 一緒に滑ろうか!教えてやるよ 昼ごはんも おごるから 一日すべろう!」
僕は 「まあ 自分も いつも ひとりで 滑っているから じいさんの相手も 悪くないか」と思い 了解した。
じいさんは うまかった
細い体なのに 華麗な姿で 滑っていた。
「にいちゃん スキーはね 体力なんて いらないんだよ。だから この歳になっても 楽しめるんだ」
僕には 衝撃だった。スキー場で これほど 歳をとった人を 見たことがなかったので スキーは 若い 体力のある人が やるもんだと思っていたからだ。
2日間 じいさんと 滑った。というより 教わった。
体力まかせのスキーから 一生でき得るスキーへのシフトだった。
最後の夜、やっぱり ロビーで 話をした。
ちょうど お孫さんが 僕と 同じ年頃で 今 独協大学にいることだとか リフトもなかったころのスキーの話などなど 最初の晩より 楽しく話せた。
「あっ 僕の勤めていた会社のコマーシャルだ!」
ロビーのテレビを 指差した。
コマーシャルは 「痔には ボラギノール」だった。
数日後 僕は どうしても スキーを教えてくれたお礼がしたく 宿帳の住所に 手紙を送った。
しばらくした後 二人で撮った写真と一緒に 大学を楽しめという手紙と 名刺が 入っていた
その名刺には 「天藤製薬株式会社 会長」 と書いてあった
ボラギノールのコマーシャルの最後には 確かに 同じ製薬会社の名前が 写っていた。
その後 手紙のやり取りは していないが あの独特なコマーシャルをみると いつも このことを 思い出す。
体力にかかわらず それなりに一生 スキーを楽しめるキッカケをつくってくれた このお爺さんに感謝している
でも ひとつだけ 気にしていることがある
友達が 僕のスキーをみて よく いうことが あるのだ
「なんか お前って じじくさいすべりだよなー」