キフツゲート・コート・ガーデンズⅠ~イングリッシュ・ガーデンの旅 11
テーマ:イングリッシュガーデン
2010/01/10 05:56
2008年の6月23日月曜日。
その午後は、午前中に見学したヒドコート・マナー・ガーデンからは目と鼻の先、キフツゲート・コート・ガーデンズを訪ねました。
庭園の案内図を一目見て、これは隅々までしっかりと目の届くガーデンであると感じました。
このガーデン、これまでに見学したシシングハースト・キャッスルやヒドコート・マナー・ガーデンがナショナル・トラストに寄贈され、そこで管理されている庭園であるのに対し、今もって個人で所有し、個人で管理されている庭園なのです。
しかも、作り始めたのがミュワー夫人、その後を受けて娘さんのディアニー・ビニイー夫人がこれを引継ぎ、現在はそのまた娘さんのアン・チャンバーさんと、女性3代に渡って育て上げられてきた庭園です。
(初代ミュワー夫人が、ヒドコート・マナーのローレンス・ジョンストンと交流し、いろいろとアイデアを交換し合ったという話が知られています)
ですからとても手入れの行き届いた、女性らしい繊細さと豊かな色彩感覚に溢れた庭園という印象を受けました。
そのようにとてもこぢんまりとした庭園でもあり、午後から開園した事もあって見学者も少なく、ゆっくりと構成を把握しながら見学することが出来ました。
わたしの撮った写真からも当日の私の歩んだ道筋がはっきりわかるくらいです。
庭園はハウスの周辺のフォーマル・スタイルのガーデンと、そこから少し下ったボーダーを主体としたアッパー・ガーデン、崖を下ったロウアー・ガーデンによって構成されていて、この高低差と空間の変化が、この庭園を狭いながらもとても豊かで奥行きのあるものにしています。
狭いといっても、じっくりと見学するには半日でも足らないくらいですから、その管理はさぞや大変なことでしょう。
今回は前回のレポートのように悩むことなく、わたしの歩んだままにたっぷり写真を紹介していこうと思います。
まず、フォー・スクエアと呼ばれる整形式の可愛らしいガーデンを抜け、
ワイド・ボーダーに降ります。
これを抜け、
キフツゲイトと名付けられ25メートルまでに成長したツルバラのからまるブナの巨木を右に見て、
イエロー・ボーダーへ。
やわらかなイエローに包まれます。
そして、
いつしかローズ・ボーダーに誘われ、
その先のフォーカル・ポイントとなる奇妙な像に目を奪われます。
それは著名なサイモン・ヴェリティ作の椅子の形をした女性の像なのでした。
やがて、再びローズ・ボーダーを逆に辿り、
ホワイト・サンク・ガーデンへ。
このガーデンは、わたしが庭園を巡りながら何度も繰り返し訪れた、とても素敵な庭です。
ホワイトというよりも、アリウムやヒナゲシやバーベナ、シシリンチウムなどのブルー・ピンク系の花の印象が強く、花の終わった後のラベンダーや咲かせる前のサントリーナなどの存在感が強いガーデンですが、噴水があり、ヒドコート・ブルーのテーブルセットがあり、ライム・ストーンの石積みがあり…
そのすべてをわたしは美しいと感じ、そこを訪れるごとにとても穏やかで豊かな気持ちにさせてもらいました。
それは、いったい何だったのでしょうか?
こんな考えが正しいかどうかは分かりません。
そこはとても良い‘気’の集まる場所なのではないか、と…
今その時のことを振り返りつつ、わたしは思い至っています。
‘気’が、もしも英国の文化に馴染まないなら、‘精霊’と置き換えても構いません。
「まず、その土地の精霊の声に耳を傾けよ」
とは、確か庭園の設計者に向けられた言葉であったように記憶しています。
良い精霊の集まる場所…
ホワイト・サンク・ガーデンは、まさにそんな場所であったと思います。
わたしもまた、良い気をまとい、良い精霊をたくさん味方に付けたガーデン・デザイナーでありたいと、願います。
人をそのような思いに導く場所。
素敵だとは思いませんか?
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/
その午後は、午前中に見学したヒドコート・マナー・ガーデンからは目と鼻の先、キフツゲート・コート・ガーデンズを訪ねました。
庭園の案内図を一目見て、これは隅々までしっかりと目の届くガーデンであると感じました。
このガーデン、これまでに見学したシシングハースト・キャッスルやヒドコート・マナー・ガーデンがナショナル・トラストに寄贈され、そこで管理されている庭園であるのに対し、今もって個人で所有し、個人で管理されている庭園なのです。
しかも、作り始めたのがミュワー夫人、その後を受けて娘さんのディアニー・ビニイー夫人がこれを引継ぎ、現在はそのまた娘さんのアン・チャンバーさんと、女性3代に渡って育て上げられてきた庭園です。
(初代ミュワー夫人が、ヒドコート・マナーのローレンス・ジョンストンと交流し、いろいろとアイデアを交換し合ったという話が知られています)
ですからとても手入れの行き届いた、女性らしい繊細さと豊かな色彩感覚に溢れた庭園という印象を受けました。
そのようにとてもこぢんまりとした庭園でもあり、午後から開園した事もあって見学者も少なく、ゆっくりと構成を把握しながら見学することが出来ました。
わたしの撮った写真からも当日の私の歩んだ道筋がはっきりわかるくらいです。
庭園はハウスの周辺のフォーマル・スタイルのガーデンと、そこから少し下ったボーダーを主体としたアッパー・ガーデン、崖を下ったロウアー・ガーデンによって構成されていて、この高低差と空間の変化が、この庭園を狭いながらもとても豊かで奥行きのあるものにしています。
狭いといっても、じっくりと見学するには半日でも足らないくらいですから、その管理はさぞや大変なことでしょう。
今回は前回のレポートのように悩むことなく、わたしの歩んだままにたっぷり写真を紹介していこうと思います。
まず、フォー・スクエアと呼ばれる整形式の可愛らしいガーデンを抜け、
ワイド・ボーダーに降ります。
これを抜け、
キフツゲイトと名付けられ25メートルまでに成長したツルバラのからまるブナの巨木を右に見て、
イエロー・ボーダーへ。
やわらかなイエローに包まれます。
そして、
いつしかローズ・ボーダーに誘われ、
その先のフォーカル・ポイントとなる奇妙な像に目を奪われます。
それは著名なサイモン・ヴェリティ作の椅子の形をした女性の像なのでした。
やがて、再びローズ・ボーダーを逆に辿り、
ホワイト・サンク・ガーデンへ。
このガーデンは、わたしが庭園を巡りながら何度も繰り返し訪れた、とても素敵な庭です。
ホワイトというよりも、アリウムやヒナゲシやバーベナ、シシリンチウムなどのブルー・ピンク系の花の印象が強く、花の終わった後のラベンダーや咲かせる前のサントリーナなどの存在感が強いガーデンですが、噴水があり、ヒドコート・ブルーのテーブルセットがあり、ライム・ストーンの石積みがあり…
そのすべてをわたしは美しいと感じ、そこを訪れるごとにとても穏やかで豊かな気持ちにさせてもらいました。
それは、いったい何だったのでしょうか?
こんな考えが正しいかどうかは分かりません。
そこはとても良い‘気’の集まる場所なのではないか、と…
今その時のことを振り返りつつ、わたしは思い至っています。
‘気’が、もしも英国の文化に馴染まないなら、‘精霊’と置き換えても構いません。
「まず、その土地の精霊の声に耳を傾けよ」
とは、確か庭園の設計者に向けられた言葉であったように記憶しています。
良い精霊の集まる場所…
ホワイト・サンク・ガーデンは、まさにそんな場所であったと思います。
わたしもまた、良い気をまとい、良い精霊をたくさん味方に付けたガーデン・デザイナーでありたいと、願います。
人をそのような思いに導く場所。
素敵だとは思いませんか?
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/
ヒドコート・マナー・ガーデンⅡ~イングリッシュ・ガーデンの旅 10
テーマ:イングリッシュガーデン
2010/01/09 07:46
次回は植物を紹介できれば…
と、少し自信が持てなかったのはあまり綺麗な植物の写真が無かったからです。
この日、われわれはチャーターしたバスでコッツウォルズ地方にロンドンから日帰りで出掛けたのですが、旅程は午前中がこのヒドコート。午後はキフツゲートということでした。
コッツウォルズを訪ねながら、ブロードウェイもチッピング・カムデンもストウ・オン・ザ・ウォルドもボートン・オン・ザ・ウォーターも立ち寄らない…
この徹底したこだわりに主催者というか企画者の心意気を感じながら、それでも少しは淋しい思いをしたのですが、実際にそんな感慨にふける間もないほど慌ただしい見学となりました。
7エーカーのシシング・ハースト・キャッスルに丸一日を費やした初日に比べ、10エーカーのヒドコート・マナーに半日というのは、かなり厳しい条件。
昼食の時間も惜しんで、歩きながらサンドイッチをミネラルウォーターで流し込みながら見て回ったわたしに、もはやブロードウェイやチッピング・カムデンやストウ・オン・ザ・ウォルドやボートン・オン・ザ・ウォーターに対する未練など微塵も残っていませんでした。
ただでさえ多い見学者に押し流されるようにして見て回ったわたしが、まず専念しなければと考えたのは庭園全体の構成を鳥瞰的に捉えること。
撮った写真も必然的にエリアごとの特徴を追い求めることになり、庭を構成する細かい要素や植物はつい後回しになってしまったのでした。
で、この長々とした言い訳で言いたかったのは、そのような訳で植物の写真がとても少ないレポートになってしまいました。
ゴメンナサイ。
という事です。
ただ、どうでしょうか。
シシング・ハーストよりも、ロンドンよりも北部に位置するこのコッツウォルズですが、ここにきてずいぶんと季節が進んでいた気がしないでもありません。
バラはすでにピークを越え、夏の宿根草は繁茂し、ガーデナーのみなさんも手入れが追いつかない様子。
それともやはり、規模が大きすぎるのでしょうか?
その中でも美しいと思ったカットがいくつか残っていますので、そちらを紹介させて頂きます。
それらは当然のように初夏のイングリッシュ・ガーデンを彩る宿根草たち。
日本でもおなじみのルピナスやユーフォルビア。
ダリアとデルフィニウム。
この時期、各庭園の随所で元気な姿がたくさん見られた、とても印象的でダイナミックなアストランティアとアルケミラ・モリス。
アスチルベとゲラニウム。
…すみません。
変わった種類の植物も紹介しなくてはいけないのですが、なにぶんにも勉強不足で、植物図鑑を携帯してはいたのですが、それを取り出す時間すら惜しくて…
これは徳田先生が興味を持たれていて一緒に撮ったもの。
こんなものや、
これはどこかで見て知っていながらも名前が出て来ません。
でも、素敵でした。
あ、そう言えばバラの写真が少ないですね。
次はしっかり撮ってきたいと思います!
次があるのだろうか…
次回はコッツウォルズ後半のキフツゲート・コート・ガーデンズをご紹介します。
期待以上の素晴らしい庭園でした。
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/
と、少し自信が持てなかったのはあまり綺麗な植物の写真が無かったからです。
この日、われわれはチャーターしたバスでコッツウォルズ地方にロンドンから日帰りで出掛けたのですが、旅程は午前中がこのヒドコート。午後はキフツゲートということでした。
コッツウォルズを訪ねながら、ブロードウェイもチッピング・カムデンもストウ・オン・ザ・ウォルドもボートン・オン・ザ・ウォーターも立ち寄らない…
この徹底したこだわりに主催者というか企画者の心意気を感じながら、それでも少しは淋しい思いをしたのですが、実際にそんな感慨にふける間もないほど慌ただしい見学となりました。
7エーカーのシシング・ハースト・キャッスルに丸一日を費やした初日に比べ、10エーカーのヒドコート・マナーに半日というのは、かなり厳しい条件。
昼食の時間も惜しんで、歩きながらサンドイッチをミネラルウォーターで流し込みながら見て回ったわたしに、もはやブロードウェイやチッピング・カムデンやストウ・オン・ザ・ウォルドやボートン・オン・ザ・ウォーターに対する未練など微塵も残っていませんでした。
ただでさえ多い見学者に押し流されるようにして見て回ったわたしが、まず専念しなければと考えたのは庭園全体の構成を鳥瞰的に捉えること。
撮った写真も必然的にエリアごとの特徴を追い求めることになり、庭を構成する細かい要素や植物はつい後回しになってしまったのでした。
で、この長々とした言い訳で言いたかったのは、そのような訳で植物の写真がとても少ないレポートになってしまいました。
ゴメンナサイ。
という事です。
ただ、どうでしょうか。
シシング・ハーストよりも、ロンドンよりも北部に位置するこのコッツウォルズですが、ここにきてずいぶんと季節が進んでいた気がしないでもありません。
バラはすでにピークを越え、夏の宿根草は繁茂し、ガーデナーのみなさんも手入れが追いつかない様子。
それともやはり、規模が大きすぎるのでしょうか?
その中でも美しいと思ったカットがいくつか残っていますので、そちらを紹介させて頂きます。
それらは当然のように初夏のイングリッシュ・ガーデンを彩る宿根草たち。
日本でもおなじみのルピナスやユーフォルビア。
ダリアとデルフィニウム。
この時期、各庭園の随所で元気な姿がたくさん見られた、とても印象的でダイナミックなアストランティアとアルケミラ・モリス。
アスチルベとゲラニウム。
…すみません。
変わった種類の植物も紹介しなくてはいけないのですが、なにぶんにも勉強不足で、植物図鑑を携帯してはいたのですが、それを取り出す時間すら惜しくて…
これは徳田先生が興味を持たれていて一緒に撮ったもの。
こんなものや、
これはどこかで見て知っていながらも名前が出て来ません。
でも、素敵でした。
あ、そう言えばバラの写真が少ないですね。
次はしっかり撮ってきたいと思います!
次があるのだろうか…
次回はコッツウォルズ後半のキフツゲート・コート・ガーデンズをご紹介します。
期待以上の素晴らしい庭園でした。
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/
ヒドコート・マナー・ガーデンⅠ~イングリッシュ・ガーデンの旅 09
テーマ:イングリッシュガーデン
2010/01/07 23:08
さて、うかうかしているうちに一昨年の旅の報告になってしまいました。
うかうかの原因は2008年6月23日、イギリスはコッツウォルズの名園ヒドコート・マナー・ガーデンの混雑であることは、以前のプログでも述べた気がします。
あまりの混雑に順路通りの見学が出来ず、撮った写真を時系列的に追っても何が何だか分からなくなってしまいました。
ですが、いつまでうかうかしていても記憶を取り戻せるほどの若さも、この先の存分な時間も無いわたしですから、ここは開き直ることにしました。
ヒドコート・マナーはわたしが今回の旅行でもっとも楽しみにしていたガーデンです。
そのガーデンの紹介に、順路は関係有りませんからね。
ヒドコート・ブルーと呼ばれる鮮やかな青に彩色されたベンチが素敵なフォーカル・ポイントとなって、われわれを迎えてくれました。
ヒドコート・マナー・ガーデンの名は英国庭園史の本を読めば必ず、ヴィクトリア朝時代の庭園が前世紀の風景式庭園を引きずり、壮大な貴族の館前に整形式花壇を現出させながらも「ガードネスク」として結実した挙げ句、なにやら混沌たる様相を呈したあとを受けるように、一服の清涼剤のようにして爽やかに登場します。
気取りのない親しみやすい庭。
整形式も風景式もない、ただ限られた空間を最大限に活かした素朴で奔放な庭。
世界中でかき集められた珍しい植物ではなく、ごくごく身近で親しい草花をのびのびと育てた庭。
そして、女性が初めてそのデザインと製作に関与できるようになった庭。
のちにコテージ・ガーデンと呼ばれるそうした庭の、さきがけとして紹介されることが多いのが、このヒドコート・マナーです。
これを作り上げたのは、ロウレンス・ジョンストン。
イギリス人ではなく、これがアメリカ人でした。
たまに日本庭園の歴史や作庭法にやけに詳しい外国人に出会いますが、他国の人間の方がその国の文化の本質をより深く理解できる場合があるのかもしれません。
少なくとも、ジョンストンはそうであったようです。
イギリス人よりもよりイギリス人らしく…そう希求した彼に、イタリア庭園を模した整形式の庭園など、きっと愚かしく思えたに違い有りません。
何と言ってもこのガーデンの特徴は、庭園全体をいくつかの部屋に分割し、全体としてのまとまりを出してその仕切にも直線を多用しつつ、各部屋の中では植物を自由自在に植え込むという奔放な演出にあるでしょう。
上のピラー・ガーデンも針葉樹をきっちりと刈り込みながら、その足元では宿根草がのびのびと生い茂っています。
そうかと思えば、突然のように出現する針葉樹の巨木…
ひとつの部屋を出ると次の部屋はまったく趣向、というようにホワイト・ガーデンがあり、レッド・ボーダーがあり、ドライ・ガーデンがありとワクワクさせてくれます。
プール・ガーデンの水を使った演出も、隣接する部屋からのその見せ方にもなかなかの洒脱さを感じさせられました。
こうした造園手法は、わたしがイギリスで最初に見たシシング・ハースト・キャッスルのヴィタ・サックヴィルにも影響を与えたと言われていますが、シシング・ハーストが女性らしい繊細さとまとまりのある構成力を持っていたのに対し、このヒドコート・マナーにはより大胆、より奔放という印象を強くさせられました。
前者が館を中心にして同心円的に外側に向かって緻密な庭から素朴な庭へと拡がっていくのに対し、こちらは突然のように直線的な空間構成を見せたりします。
たとえば、このロング・ウォーク。
途中の橋を越えて全長200メートルの真っ直ぐに伸びた直線は、わたしたちを誘うだけ誘っておいて、どん詰まりのゲートの向こうにあるのはただ広大な草原…
汗だくになってようやく辿り着いたわたしは、それでもロング・ウォークの東に並行するウィルダネスの林に分け入り木陰で束の間の涼を取ったりもしました。
そして西側のロック・バンクには乾いた通路の左右にドライ・ガーデンが展開しています。
現在はシシング・ハースト・キャッスルと同様、ナショナル・トラストによって管理され、この日も多くのガーデナーたちが初夏の宿根草の手入れや植え替えに余念がありませんでした。
というわけで、はい、次回はこの庭園で出会った植物たちを紹介できればと思います。
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/
うかうかの原因は2008年6月23日、イギリスはコッツウォルズの名園ヒドコート・マナー・ガーデンの混雑であることは、以前のプログでも述べた気がします。
あまりの混雑に順路通りの見学が出来ず、撮った写真を時系列的に追っても何が何だか分からなくなってしまいました。
ですが、いつまでうかうかしていても記憶を取り戻せるほどの若さも、この先の存分な時間も無いわたしですから、ここは開き直ることにしました。
ヒドコート・マナーはわたしが今回の旅行でもっとも楽しみにしていたガーデンです。
そのガーデンの紹介に、順路は関係有りませんからね。
ヒドコート・ブルーと呼ばれる鮮やかな青に彩色されたベンチが素敵なフォーカル・ポイントとなって、われわれを迎えてくれました。
ヒドコート・マナー・ガーデンの名は英国庭園史の本を読めば必ず、ヴィクトリア朝時代の庭園が前世紀の風景式庭園を引きずり、壮大な貴族の館前に整形式花壇を現出させながらも「ガードネスク」として結実した挙げ句、なにやら混沌たる様相を呈したあとを受けるように、一服の清涼剤のようにして爽やかに登場します。
気取りのない親しみやすい庭。
整形式も風景式もない、ただ限られた空間を最大限に活かした素朴で奔放な庭。
世界中でかき集められた珍しい植物ではなく、ごくごく身近で親しい草花をのびのびと育てた庭。
そして、女性が初めてそのデザインと製作に関与できるようになった庭。
のちにコテージ・ガーデンと呼ばれるそうした庭の、さきがけとして紹介されることが多いのが、このヒドコート・マナーです。
これを作り上げたのは、ロウレンス・ジョンストン。
イギリス人ではなく、これがアメリカ人でした。
たまに日本庭園の歴史や作庭法にやけに詳しい外国人に出会いますが、他国の人間の方がその国の文化の本質をより深く理解できる場合があるのかもしれません。
少なくとも、ジョンストンはそうであったようです。
イギリス人よりもよりイギリス人らしく…そう希求した彼に、イタリア庭園を模した整形式の庭園など、きっと愚かしく思えたに違い有りません。
何と言ってもこのガーデンの特徴は、庭園全体をいくつかの部屋に分割し、全体としてのまとまりを出してその仕切にも直線を多用しつつ、各部屋の中では植物を自由自在に植え込むという奔放な演出にあるでしょう。
上のピラー・ガーデンも針葉樹をきっちりと刈り込みながら、その足元では宿根草がのびのびと生い茂っています。
そうかと思えば、突然のように出現する針葉樹の巨木…
ひとつの部屋を出ると次の部屋はまったく趣向、というようにホワイト・ガーデンがあり、レッド・ボーダーがあり、ドライ・ガーデンがありとワクワクさせてくれます。
プール・ガーデンの水を使った演出も、隣接する部屋からのその見せ方にもなかなかの洒脱さを感じさせられました。
こうした造園手法は、わたしがイギリスで最初に見たシシング・ハースト・キャッスルのヴィタ・サックヴィルにも影響を与えたと言われていますが、シシング・ハーストが女性らしい繊細さとまとまりのある構成力を持っていたのに対し、このヒドコート・マナーにはより大胆、より奔放という印象を強くさせられました。
前者が館を中心にして同心円的に外側に向かって緻密な庭から素朴な庭へと拡がっていくのに対し、こちらは突然のように直線的な空間構成を見せたりします。
たとえば、このロング・ウォーク。
途中の橋を越えて全長200メートルの真っ直ぐに伸びた直線は、わたしたちを誘うだけ誘っておいて、どん詰まりのゲートの向こうにあるのはただ広大な草原…
汗だくになってようやく辿り着いたわたしは、それでもロング・ウォークの東に並行するウィルダネスの林に分け入り木陰で束の間の涼を取ったりもしました。
そして西側のロック・バンクには乾いた通路の左右にドライ・ガーデンが展開しています。
現在はシシング・ハースト・キャッスルと同様、ナショナル・トラストによって管理され、この日も多くのガーデナーたちが初夏の宿根草の手入れや植え替えに余念がありませんでした。
というわけで、はい、次回はこの庭園で出会った植物たちを紹介できればと思います。
ホームページもぜひご覧下さい!
http://www.yui-garden.com/