リージェンツ・パークⅠ~イングリッシュ・ガーデンの旅 03
テーマ:イングリッシュガーデン
2009/11/17 18:10
二日目は朝から雨模様でした。
季節がら、それも仕方ないとガーデン見学に必需品のレインコートをバッグに入れ、それでも昨日の余韻も手伝ってウキウキ気分で出発しました。
ケンジントンのホテルから最寄りとなるアールズ・コート駅で乗車。ロンドン地下鉄を乗り継いで、降り立ったのはホームの壁面にシャーロック・ホームズのシルエットがデザインされていて楽しいベイカー・ストリート駅でした。
この日午前中の見学地はここからほど近いリージェンツ・パークとなります。
ロンドン市内には本当に美しい公園が多く、到着した夜のホテルチェックインもそこそこそに、徳田千夏先生の先導でぐるりと一周したハイド・パーク&ケンジントン・ガーデンを始めとして、この2日目の午後にひとりで歩いたグリーン・パークやセント・ジェームズ・パーク、朝の散歩で歩いたホランド・パークなど、日本的な発想でいえば本当にタダで見てしまって良いの、と思えるような素晴らしい公園が目白押しでした。
その中でも特に美しかったのがこのリージェンツ・パークです。
ベイカー・ストリート側からのアプローチ上にある徳田先生お勧めの花壇は、ちょうど植え替えを終えたばかりのようでした。
そして、それぞれに特徴を出しながら個性的で見応えのある植え込みの数々。
その中心にあるクイーン・メアリーズ・ガーデンは、壮絶ともいえる美しさのローズ・ガーデンもさることながら、南側エントランスにある池を中心としたロックガーデンも、とても魅力的で楽しいものでした。
そして、本当に息を飲んだローズ・ガーデン
じつは最初の自由行動の際にわたしはフラフラと一人、誘われるようにしてその場所を訪れてしまったのでした。
その手前を集合場所にして、メンバー全員で一緒にそこを訪れ、
「さあ、どうだぁ」
とやるのが、あとで判明した徳田先生の考えていた演出であったのですが、巧みに配置されたフォーカル・ポイントとかすかに遠望できる鮮やかな色彩に、わたしごときが引っかからないはず有りません。
ですから、まだ雨の残っていたその時間、この素晴らしいガーデンをわたし一人独占させて頂いたことを、自慢げに書き添えさせていただきます。
全員で改めて訪れた際には雨も上がり、晴れ間さえ覗き、徐々に客も増えていったのですが、それでもこのベスト・シーズンにこれだけ人の写り込まない写真を撮ることができたのは、やはり朝からの雨のお陰だったと思います。
まさに色彩のうねる波、嵐のごとく、です。
コメントはもう無用ですね。
たまに写り込んでいる人間は、すべて同行メンバーです。
はい。
案の定、ここも一回では終わりそうにありませんので、リージェンツ・パークは次回に続きます。
次回はローズ・ガーデンの続きと、気の遠くなるほどつづくアベニュー・ガーデンの花壇&ボーダー他を予定しています。
というわけで昼食のサンドイッチとコーヒーを買った公園内のカフェテリアです。
レストランに入って料理が出来上がってくるのを待つ時間さえ惜しいcozyは、ここのサンドをほおばりながらガーデンの散策を続けたのでした。
季節がら、それも仕方ないとガーデン見学に必需品のレインコートをバッグに入れ、それでも昨日の余韻も手伝ってウキウキ気分で出発しました。
ケンジントンのホテルから最寄りとなるアールズ・コート駅で乗車。ロンドン地下鉄を乗り継いで、降り立ったのはホームの壁面にシャーロック・ホームズのシルエットがデザインされていて楽しいベイカー・ストリート駅でした。
この日午前中の見学地はここからほど近いリージェンツ・パークとなります。
ロンドン市内には本当に美しい公園が多く、到着した夜のホテルチェックインもそこそこそに、徳田千夏先生の先導でぐるりと一周したハイド・パーク&ケンジントン・ガーデンを始めとして、この2日目の午後にひとりで歩いたグリーン・パークやセント・ジェームズ・パーク、朝の散歩で歩いたホランド・パークなど、日本的な発想でいえば本当にタダで見てしまって良いの、と思えるような素晴らしい公園が目白押しでした。
その中でも特に美しかったのがこのリージェンツ・パークです。
ベイカー・ストリート側からのアプローチ上にある徳田先生お勧めの花壇は、ちょうど植え替えを終えたばかりのようでした。
そして、それぞれに特徴を出しながら個性的で見応えのある植え込みの数々。
その中心にあるクイーン・メアリーズ・ガーデンは、壮絶ともいえる美しさのローズ・ガーデンもさることながら、南側エントランスにある池を中心としたロックガーデンも、とても魅力的で楽しいものでした。
そして、本当に息を飲んだローズ・ガーデン
じつは最初の自由行動の際にわたしはフラフラと一人、誘われるようにしてその場所を訪れてしまったのでした。
その手前を集合場所にして、メンバー全員で一緒にそこを訪れ、
「さあ、どうだぁ」
とやるのが、あとで判明した徳田先生の考えていた演出であったのですが、巧みに配置されたフォーカル・ポイントとかすかに遠望できる鮮やかな色彩に、わたしごときが引っかからないはず有りません。
ですから、まだ雨の残っていたその時間、この素晴らしいガーデンをわたし一人独占させて頂いたことを、自慢げに書き添えさせていただきます。
全員で改めて訪れた際には雨も上がり、晴れ間さえ覗き、徐々に客も増えていったのですが、それでもこのベスト・シーズンにこれだけ人の写り込まない写真を撮ることができたのは、やはり朝からの雨のお陰だったと思います。
まさに色彩のうねる波、嵐のごとく、です。
コメントはもう無用ですね。
たまに写り込んでいる人間は、すべて同行メンバーです。
はい。
案の定、ここも一回では終わりそうにありませんので、リージェンツ・パークは次回に続きます。
次回はローズ・ガーデンの続きと、気の遠くなるほどつづくアベニュー・ガーデンの花壇&ボーダー他を予定しています。
というわけで昼食のサンドイッチとコーヒーを買った公園内のカフェテリアです。
レストランに入って料理が出来上がってくるのを待つ時間さえ惜しいcozyは、ここのサンドをほおばりながらガーデンの散策を続けたのでした。
シシング・ハースト・キャッスル・ガーデンⅡ~イングリッシュ・ガーデンの旅 02
テーマ:イングリッシュガーデン
2009/11/15 05:45
自然は直線を好まない
これは著名な風景式庭園の造園家であるウイリアム・モリスの言葉です。
(和訳は中尾真理氏の著作「英国式庭園」講談社選書によるものです)
わたしのとても好きな言葉で、ガーデン・デザインに迷いが生じた時には必ず思い出すようにしています。
もちろん、ガーデンは自然そのものではありませんし、ガーデン・デザインは決して自然の再現ではありません。
ですが、人が人工物に囲まれた暮らしに疲れ、自らを取り巻く空間に自然の要素を少しでも多く取り入れたいと願うところからガーデンが始まるとするならば、きわめてバーチャルなものでありながらもガーデンの個々の様子は自然に近しいものであるべきであると、わたしは考えます。
ですから、わたしも直線だけで構成されたガーデンのデザインは好みません。
レンガやブロックを切り刻み、削ったり貼り付けたりして作る幾何学的な工作物も好きではありません。
製作する職人が疲弊するようなガーデンに、本源的に人を癒す力など無いと思うからです。
…それはさておき。
シシング・ハースト・キャッスル・ガーデンの第2回目は、そうした視点も踏まえて庭園を構成する様々な細かい要素を、写真で拾い出しながら紹介していきたいと思いました。
なぜ冒頭で直線にこだわったかと言いますと、この庭園のデザインがとても多くの直線によって構成されているからなのです。
この設計を担当したハロルド・ニコルソンの手によるものですが、庭園の南北を端から端まで結ぶヴュー・ウォークを作ったり、ホワイトガーデン、ローズガーデン、ハーブガーデン、スプリングガーデン、モートウォークなど、主要なガーデンは全て直線によって構成され、直線で結ばれています。
そして、それら直線が生み出す強さ、固さ、鋭さといった印象を和らげるのが夫人であるヴィタ・サックヴィル・ウェストが選び出した植物の数々です。上記の写真を見ても同じ直線のアプローチが、使う植物次第で柔らかくも固くもなることが分かると思います。そして、ガーデンのひとつひとつはそのように柔らかく、ガーデンとガーデンを結ぶ動線は固くして、庭園全体にリズムとメリハリを付けていることが分かります。
個人のお庭に同じ事を当てはめれば、個々の庭を柔らかくして、それを結ぶラインである境界線上の外構であるとか、都市計画上の道路とかをきっちりした直線で構成することに相当するでしょうか。
そして、その直線自体を構成する素材に目を向ければ、その質感がとても柔らかいことに気付かされます。
そして、さらにそこに植物が入り込んでくると、それは単なる動線ではなくなり、植物を盛る器のひとつとなってしまいます。
異なる空間と空間を結ぶ役割を持つゲートや窓もまた、次の空間を切り取るそれ自体が装飾された額縁となり、そのまま次の空間に入り込んでしまうのとはまた、違う風景を現出させてくれます。
さらには、ガーデンの脇役達もそれぞれに個性的でチャーミングでした。
まる一日をこのシシング・ハーストで過ごして、それでもまだまだ時間が足りないくらいに素敵な時間を過ごすことが出来ました。いま改めて写真を整理しながら、とても濃厚な時間だったと思いだしています。
と同時に、こんなペースですべての旅程をプログにしていたら、ヘトヘトになるに違いないと先を危ぶみつつ…
あっ、もちろんランチの際にはビールを頂いたことも書き添えて…
イングリッシュ・ガーデンの旅の初日を終わりにします。
2日目は、ローズガーデンが圧巻のリージェンツ・パーク他、です。
これは著名な風景式庭園の造園家であるウイリアム・モリスの言葉です。
(和訳は中尾真理氏の著作「英国式庭園」講談社選書によるものです)
わたしのとても好きな言葉で、ガーデン・デザインに迷いが生じた時には必ず思い出すようにしています。
もちろん、ガーデンは自然そのものではありませんし、ガーデン・デザインは決して自然の再現ではありません。
ですが、人が人工物に囲まれた暮らしに疲れ、自らを取り巻く空間に自然の要素を少しでも多く取り入れたいと願うところからガーデンが始まるとするならば、きわめてバーチャルなものでありながらもガーデンの個々の様子は自然に近しいものであるべきであると、わたしは考えます。
ですから、わたしも直線だけで構成されたガーデンのデザインは好みません。
レンガやブロックを切り刻み、削ったり貼り付けたりして作る幾何学的な工作物も好きではありません。
製作する職人が疲弊するようなガーデンに、本源的に人を癒す力など無いと思うからです。
…それはさておき。
シシング・ハースト・キャッスル・ガーデンの第2回目は、そうした視点も踏まえて庭園を構成する様々な細かい要素を、写真で拾い出しながら紹介していきたいと思いました。
なぜ冒頭で直線にこだわったかと言いますと、この庭園のデザインがとても多くの直線によって構成されているからなのです。
この設計を担当したハロルド・ニコルソンの手によるものですが、庭園の南北を端から端まで結ぶヴュー・ウォークを作ったり、ホワイトガーデン、ローズガーデン、ハーブガーデン、スプリングガーデン、モートウォークなど、主要なガーデンは全て直線によって構成され、直線で結ばれています。
そして、それら直線が生み出す強さ、固さ、鋭さといった印象を和らげるのが夫人であるヴィタ・サックヴィル・ウェストが選び出した植物の数々です。上記の写真を見ても同じ直線のアプローチが、使う植物次第で柔らかくも固くもなることが分かると思います。そして、ガーデンのひとつひとつはそのように柔らかく、ガーデンとガーデンを結ぶ動線は固くして、庭園全体にリズムとメリハリを付けていることが分かります。
個人のお庭に同じ事を当てはめれば、個々の庭を柔らかくして、それを結ぶラインである境界線上の外構であるとか、都市計画上の道路とかをきっちりした直線で構成することに相当するでしょうか。
そして、その直線自体を構成する素材に目を向ければ、その質感がとても柔らかいことに気付かされます。
そして、さらにそこに植物が入り込んでくると、それは単なる動線ではなくなり、植物を盛る器のひとつとなってしまいます。
異なる空間と空間を結ぶ役割を持つゲートや窓もまた、次の空間を切り取るそれ自体が装飾された額縁となり、そのまま次の空間に入り込んでしまうのとはまた、違う風景を現出させてくれます。
さらには、ガーデンの脇役達もそれぞれに個性的でチャーミングでした。
まる一日をこのシシング・ハーストで過ごして、それでもまだまだ時間が足りないくらいに素敵な時間を過ごすことが出来ました。いま改めて写真を整理しながら、とても濃厚な時間だったと思いだしています。
と同時に、こんなペースですべての旅程をプログにしていたら、ヘトヘトになるに違いないと先を危ぶみつつ…
あっ、もちろんランチの際にはビールを頂いたことも書き添えて…
イングリッシュ・ガーデンの旅の初日を終わりにします。
2日目は、ローズガーデンが圧巻のリージェンツ・パーク他、です。
シシング・ハースト・キャッスル・ガーデンⅠ~イングリッシュ・ガーデンの旅 01
テーマ:イングリッシュガーデン
2009/11/14 05:43
2008年6月20日。
初日は何といきなり、ケント州のシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンを訪ねました。
イギリスでもっとも美しい庭園と呼ばれ、そのホワイト・ガーデンは数限りない後の庭園に影響を与えた素晴らしいガーデンです。
ヒドコート・マナーと合わせて、今回の旅行でわたしがもっとも楽しみにしていた場所のひとつでもあります。
その庭園がもっとも美しいと言われる、ホワイトガーデンにランブラーローズの咲き誇る6月にここを訪れることが出来たのは、なんと幸運なことでしょうか。
この庭園を作り上げたのは文学者であったヴィタ・サックヴィル・ウェストと、その夫のハロルド・ニコルソン。
廃墟となっていた城館を購入し、夫のハロルドが庭園全体のデザインを受け持ち、妻のヴィタが植栽プランを立てました。モデルとされたのは後ほど訪れるコッツウォルズのヒドコート・マナー・ガーデンであったと言われています。
イングリッシュ・ガーデンと言ってもそのスタイルはさまざまです。
わたしは、リージェンツ・パークで「イングリッシュ・ガーデン」の案内板を見た時、本場のイギリス人が何を以て「イングリッシュ・ガーデン」と呼んでいるのか興味を抱き、出掛けていったことがありました。
そう、それは池があり丘があり、針葉樹の林のある本格的な風景式庭園でした。
なるほど…
日本ではもちろんそうした何十エーカーもあるような風景式庭園はなかなか作れるはずが無く、現在一般に「イングリッシュ・ガーデン」と呼ばれているのはもっぱらコテージ・ガーデンのスタイルであろうかと思います。
田舎家の庭…
家屋を中心にこれといった計画性を持たずに樹木が植えられ、足元に季節の宿根草が咲き、門から玄関に至る動線の左右にはボーダーと呼ばれる植栽がほどこされ、高低も色彩も多様な植物たちが季節ごとに奔放に咲き誇る庭!
わたしが最も愛するこのスタイルを、巧みに取り入れてデザインされたのがこのシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンなのでした。
メインハウスのゲートをくぐると正面にそそり立つのが、この庭園のシンボルであり、すべてのガーデンから臨むことが出来、常に美しい背景となる塔です。
上の2枚の写真はこの塔の上から撮り下ろしたものでした。
われわれデザイナーにとっても、こうして庭園全体を俯瞰しながら庭を学ぶことが出来るのは、とても貴重でありがたいことです。
このようにして改めて写真を整理していて気付くシシング・ハーストの魅力。
そのひとつは壁面を美しく見せる技術の巧みさです。
レンガ積みの壁面はそれ自体が美しいのですが、そこを伝うクライマー・ローズやスイカズラ、アイビーやフジなどの美しさはどうでしょう。
美しい壁面を贅沢にも背景として使うそれらには、植物単独では表現出来ない美しさがあります。人工物と交わることでより強調される自然の美ということが、言えるかも知れませんね。
もうひとつの魅力。
それは空間と空間を結ぶ技術の巧みさです。
ひとつのゲートをくぐることで違う空間に導かれ、さらに違う次のテーマがさりげなく提示され、フォーカル・ポイントの彫像に導かれて訪れた池からはまた違った風景が遠望できる…
常に驚きと発見が連続します。
塔を中心とした凝縮され濃厚な美しさを見せるガーデンとそれを取り巻く奔放でゆったりとしたウェルダネス、それらを仕切る直線的な生垣に囲まれた通路、ヴュー・ウォーク。
やれやれ。
本当は1つの庭園や公園を1日ごとに紹介していこうと思ったのですが、やはりシシング・ハーストほどになると1回では無理みたいです。この調子でいくと10回くらいの連載では全旅程の紹介は終わらないかも知れませんね。
ここで少し、ひと休み。
ウィルダネスのベンチから掘にたたえられた水面を眺める老夫婦の、あの静かで穏やかな時間をいつかわたしも共有したいと願いつつ…
初日は何といきなり、ケント州のシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンを訪ねました。
イギリスでもっとも美しい庭園と呼ばれ、そのホワイト・ガーデンは数限りない後の庭園に影響を与えた素晴らしいガーデンです。
ヒドコート・マナーと合わせて、今回の旅行でわたしがもっとも楽しみにしていた場所のひとつでもあります。
その庭園がもっとも美しいと言われる、ホワイトガーデンにランブラーローズの咲き誇る6月にここを訪れることが出来たのは、なんと幸運なことでしょうか。
この庭園を作り上げたのは文学者であったヴィタ・サックヴィル・ウェストと、その夫のハロルド・ニコルソン。
廃墟となっていた城館を購入し、夫のハロルドが庭園全体のデザインを受け持ち、妻のヴィタが植栽プランを立てました。モデルとされたのは後ほど訪れるコッツウォルズのヒドコート・マナー・ガーデンであったと言われています。
イングリッシュ・ガーデンと言ってもそのスタイルはさまざまです。
わたしは、リージェンツ・パークで「イングリッシュ・ガーデン」の案内板を見た時、本場のイギリス人が何を以て「イングリッシュ・ガーデン」と呼んでいるのか興味を抱き、出掛けていったことがありました。
そう、それは池があり丘があり、針葉樹の林のある本格的な風景式庭園でした。
なるほど…
日本ではもちろんそうした何十エーカーもあるような風景式庭園はなかなか作れるはずが無く、現在一般に「イングリッシュ・ガーデン」と呼ばれているのはもっぱらコテージ・ガーデンのスタイルであろうかと思います。
田舎家の庭…
家屋を中心にこれといった計画性を持たずに樹木が植えられ、足元に季節の宿根草が咲き、門から玄関に至る動線の左右にはボーダーと呼ばれる植栽がほどこされ、高低も色彩も多様な植物たちが季節ごとに奔放に咲き誇る庭!
わたしが最も愛するこのスタイルを、巧みに取り入れてデザインされたのがこのシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンなのでした。
メインハウスのゲートをくぐると正面にそそり立つのが、この庭園のシンボルであり、すべてのガーデンから臨むことが出来、常に美しい背景となる塔です。
上の2枚の写真はこの塔の上から撮り下ろしたものでした。
われわれデザイナーにとっても、こうして庭園全体を俯瞰しながら庭を学ぶことが出来るのは、とても貴重でありがたいことです。
このようにして改めて写真を整理していて気付くシシング・ハーストの魅力。
そのひとつは壁面を美しく見せる技術の巧みさです。
レンガ積みの壁面はそれ自体が美しいのですが、そこを伝うクライマー・ローズやスイカズラ、アイビーやフジなどの美しさはどうでしょう。
美しい壁面を贅沢にも背景として使うそれらには、植物単独では表現出来ない美しさがあります。人工物と交わることでより強調される自然の美ということが、言えるかも知れませんね。
もうひとつの魅力。
それは空間と空間を結ぶ技術の巧みさです。
ひとつのゲートをくぐることで違う空間に導かれ、さらに違う次のテーマがさりげなく提示され、フォーカル・ポイントの彫像に導かれて訪れた池からはまた違った風景が遠望できる…
常に驚きと発見が連続します。
塔を中心とした凝縮され濃厚な美しさを見せるガーデンとそれを取り巻く奔放でゆったりとしたウェルダネス、それらを仕切る直線的な生垣に囲まれた通路、ヴュー・ウォーク。
やれやれ。
本当は1つの庭園や公園を1日ごとに紹介していこうと思ったのですが、やはりシシング・ハーストほどになると1回では無理みたいです。この調子でいくと10回くらいの連載では全旅程の紹介は終わらないかも知れませんね。
ここで少し、ひと休み。
ウィルダネスのベンチから掘にたたえられた水面を眺める老夫婦の、あの静かで穏やかな時間をいつかわたしも共有したいと願いつつ…