地震のあと04

テーマ:思い
昨日は電車とバスを使ってお客さまのお宅を2軒、訪問した。

幸い前日のうちに計画停電中止が発表されていたため、鉄道の運行本数は日頃の30%から50%まで増やされていたし、バスも全日土日の時刻表で動いているのが分かっていたのでかなり余裕をもって訪問出来るかと思われた。
最後のバスに乗る。これで最寄りの停留所で降りたら、後は徒歩で10分と掛からない。
土曜ということもあり9時を過ぎてもとても静かだ。道もとても空いている。行き交うのは自転車だけという、少し見慣れない景色が続いた。この調子で早く着きすぎたら、どうやって時間をつぶそうかと考えていた。

でも、それも初めのうちだけだった。
幹線道路に近づいた途端、バスが停止してエンジンを止めた。
「お客さん、しばらく動かないかもしれませんよ」
運転手さんに言われた。
「どうかしたんですか?」
運転手さんはため息まじりに応えた。
「いやあ、ガソリンスタンド渋滞ですよ」

なるほどと思った。
うちの方でも渋滞とまではいかないまでも、ガソリンスタンドで出来る行列が後続のクルマの妨げになることがある。
道路が狭く交通量が多い場所なら、確かに渋滞を招くことになるだろう。
いや、近頃クルマで移動することが少なくなったわたしが知らないだけで、今やあちこちで現出する光景なのかも知れない。
「困ったもんですよ。時刻表通りにバスが動かせない」
わたしは始めはすぐに抜けられるとタカを括っていたが、バスはピクリとも動かなくなった。
余裕のあった筈のアポの時間がにわかに切迫したものになる。
わたしは運転手さんにお願いしてそこで降ろしてもらい、後の3キロばかりを歩くことにした。もとより、覚悟の上で来ていたのでカタログ類や書類を入れたふたつのバッグのうちのひとつは背中に背負えるようになっている。

歩いてみると前方に大きな交差点があってそこで幹線と合流しているため、幹線の渋滞が支線の流れを完全に止めていた。それだけではなく、渋滞に懲りて方向転換を図ったらしいクルマが別のクルマと接触事故まで起こしている…
なるほど、動かない訳だ。

久々に晴れて風もなく、とても気持ちの良い季候だった。
最初は久しぶりにこうして歩くのも悪くないなと思っていた。
が、脇には延々と続く渋滞の列。
どのクルマも道の脇に寄せているところをみると、それらはまだ行列なのかも知れないが、スタンドはわたしの曲がった交差点の先にあるらしく、いったいこの行列がどれくらい続いているのか分からなくなってきた。
やがて暑くなってきた事もあって、わたしはだんだん気持ち悪くなってきた。風がないから渋滞のクルマたちの出す排気ガスが歩道に溜まって息苦しくなってきたのだ。

ガソリンが無いからスタンドに行列が出来る。その行列が意味もなくガソリンを消費する。沿線の住民の生活に負担を掛ける。
この不毛な悪循環もまた災害なのだと思った。
傷つく人がどんどん増えていく…
クルマの姿がまったく見えない閑散とした住宅地や、こうして重苦しい渋滞を続ける幹線道路の景色は、かつて何度も見た阪神淡路の被災地の光景と同じだ。
違うのは建物が損壊していないだけ…
いや、渋滞のクルマのマナーもまた違うかもしれない。
阪神で渋滞の中にあるクルマはみな、復興のために動いているか避難のためのもの。
みんな淡々と渋滞を受け入れていたし、沿線住民を気遣ってエンジンも止めていた。沿線の住民もそれらのクルマを温かく見守っていた。
この渋滞でアイドリングを止めないのはまだガソリンに余裕があるということだ。おまけに時折激しいクラクションも鳴る。みんな苛立っている…。容易に苛立つことの出来る程度の動機で、この列に加わっているのだろう。

40分ほど歩いてお客さまのお宅に到着するまでの間に、そうした渋滞をふたつ見た。その中間はほとんどクルマが通ることなく一気に静かになり、しばらく行った先のスタンドから次の渋滞が始まり、それはお客さまのお宅への入口から、まだずっと先まで延びていた。

地震のあと01

お客さまとは契約前の最終的な仕様確認を行った。
前日、お客さまからメールを頂いていた。
ガソリン不足の事などお気遣いくださり、打合せの延期を提案していただいたのだが、わたしはわたしの考えを伝えてご理解を頂いていた。
こんな時だからこそ、ご一緒にお庭の夢を語り合いたいし、こうした一歩一歩の積み重ねがお庭の出来をよりさらに高めるのだと思う。それはやはりメールの交換だけで済ますのと大きく違う。

帰路は運休だった最寄りのJRがその日に限って運行していることを知り、バスの渋滞に合うことなく、次のお宅を訪問しカタログを届けることが出来た。
お留守だったので手紙を書こうとしていたところに戻られて、それぞれの無事を確認して喜び合った。

いつもクルマを利用することしか頭になかった自分が愚かしく思えてしまうくらい、楽しく充実した一日だった。
たしかに効率が悪く時間も掛かるけれど、それはロスではない。
掛かった時間の間に学ぶことは多い。本も読める。

今日もこれから道具を入れたリュックを担いで電車に乗り、メンテナンスに出掛ける。
今日はいったいどんな人と、どんな話が出来るだろう。

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向井康治

ガーデン工房 結 -YUI-は、埼玉を起点に植物を中心に据えたガーデンデザインと設計・施工を仕事とする会社です。
ただし、面白い仕事であれば時には利益も距離感覚も忘れ去る脳天気ぶり。
だから、この仕事にはいつも様々な出会いがあります。人、植物、もの、本、言葉、音楽…。

結 -YUI- はネットワークです。
それは多彩な技術や知識を持った人々が持てる力を共有し合うこと。
人と自然界の美とが満を持して出会うこと。

わたしが文芸、農業、インド、土木、外構、アウトドアと巡ってきた先の到達点は、おそらくそれらみんなの要素を遺憾なく結集することのできる、小宇宙 「ガーデン」でした。

ガーデンデザイナーとして、ガーデナーとして、これまでの、そしてこれから先の「出会い」を余すことなくお伝え出来ればと思います。

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