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昨年のしごと~ウリンのはなし

テーマ:しごと

さて、昨年のしごとの続きです。

昨年の夏、あの永遠に続くかと思えた炎天下の中で汗をしたたらせながら、3軒のお宅でウリン材を使った仕事をしました。

現在、井出さんのブログに強く啓発されてそこでもコメントをした通り、わが社はウリン材の使用を控える方向で検討を開始し、それに代わる材を模索中です。
だから決してウリン材の宣伝にするつもりはありませんが、様々な可能性を検討する過程の一つとして、ここで振り返っておきます。

3軒のお宅のうち、一軒はごく一般のお宅。
角のスミ切りを丸く収めるという手の掛かる課題を頂いた以外は従来通りの施工でした。

熊谷市Y様邸ウリンのウッドデッキ


ウリンは別名ビリアンとかボルネオ・アイアンウッドとか呼ばれ、原産国はインドネシア、マレーシアです。
樹液中に14%程度含まれるポリフェノールがバクテリアの繁殖を抑え、シロアリの害にも強く海水に対する耐久性も抜群で、一般に無塗装で30年以上は保つと言われています。
比重は1.4、圧縮強度675kg/cm2、曲げ強度1268kg/cm2…
とても重たくて強くて硬い木材です。
ビス止めの為には下穴が必要だったり、重くて扱いが大変だったり、ねじれた材の矯正が困難だったり、その初期段階で樹液中のポリフェノールを原因とするアクを滲出したり、そしてもちろん高価だったりしますが、例えばウッドデッキの材料としては最高だと思います。
経年変化の退色の具合も良いし、なめらかな肌触りも良いし、なによりその重量感と質感が捨てがたい魅力です。

そう。
その供給に問題さえなければ…

わたしは現在ある輸入業者と取引して、そこからウリンを入れてもらっているのですが、昨年、その担当者に現地の状況…つまり、伐採後の森林再生はどの程度進んでいるのか、供給過多による弊害は発生していないのか、今後も安定的な供給は可能なのか、その辺を報せて欲しい、何なら現地を見に行きたいと伝えました。
…残念ながら明確な回答はまだ戻ってきていません。
それが確実にマレーシア産のもので、間違っても輸出禁止措置をとっているインドネシアから流れてきたものではないとの報告だけは受けていますが、さて、今となれば…

安定供給の点でも、現在中国が急速な経済発展を背景に大量の買い付けに乗り出しているのだとか…
日本でも公共事業や大手デベロッパーによる大量利用が進んでいる昨今、年間数m3程度のわが社の動向などとは関係なく、現地では確実に森林破壊が進んでいるのだと思います。

もしこうした問題さえなければ、耐久性の高い天然の木材を使って、その冬暖かく夏も裸足で歩ける柔らかい質感をお客さまに楽しんでもらいたいというのが、わたしの強い願いです。
わたしのお客さまはお子様のまだ小さな若いご夫婦がほとんどで、当然のように共働きで朝早くから夜遅くまで留守にされるお宅が多いものですから、定期的なメンテナンスを要する材は勧めにくく、またあまりに高価なものも使いにくいのが現状です。
工夫に工夫を重ねて手間などの原価を抑え、ようやく樹脂材よりやや安い価格でウリン製のウッドデッキを提供出来るようになったのに…

先の井出さんの記事はしかし、わたしには決定打でした。
やはりこれからはウリンは使えないなと、考えさせられました。

…勉強不足と言えばたしかに勉強不足で、もっと早く気付くべきところでしたが、その結果わたしの手によるウリンのウッドデッキを手に入れられたご家族がある訳で、その方たちの幸せまでこのことで否定することは勿論できません。逆に、多くの犠牲を経て手に入れたそれでもし満足してもらえないのであれば、わたしにはこの仕事を続ける資格はないと思います。幸い、どのお客さまにも喜んで頂いていますし、先に紹介したように目一杯それで楽しんでおられるSさんご一家みたいなご家族もありますから…


と言うわけで、もう2軒の仕事を報告させてもらいます。

共に福祉関係の事業所からのご依頼でした。

1軒目はお仕事場の医院と立て直されたお住まいを結ぶ動線にあるステップの改修工事でした。
狭くて様々な設備があり、段差もある場所です。

熊谷市I様邸着工前

高齢になられ、足腰もやや不自由になられたお客さまが毎日数度往復されるのに、現状の小さいステップでは余りに狭く段差も大きすぎると言うことだったのですが、かと言って既製品でこの場所に納まるものが無い。雨風にさらされるこの場所で木材を使ってもし腐りでもしたら、かえって危険な物になってしまう…
いろいろ悩まれた事業所さんがわたしの以前の仕事をご覧になる機会があり、相談を持ちかけられたのでした。
なんとか、あのウリンを使って広くて安定したステップは作れないだろうか。できれば、雨水桝を覗く点検窓も欲しいし、いざとなれば移動可能な物にしてほしい…

そして悩みながら現場合わせで作ったのが、これでした。

熊谷市I様邸ウリンのステップ

3つのパーツを組み合わせていざとなれば分解可能とし、点検扉を開けると雨水枡の蓋もきちんと外せるように作りました。ウリンの重さが安定感を出し、耐久性も抜群です。このあと建物の壁に手すりも取り付けて使って頂きましたが、行き来がとても楽になったと喜んで頂けた様子です。

もう一軒は居室の掃き出し口から直接車椅子で外に出るためのスロープのご依頼でした。
これも既製品では対応しきれず、仮にあったとしてもとても高価でこれまではあきらめて、ぐるりと遠い玄関を回られていたのだそうです。

坂戸市I様邸着工前

設計するにあたり、心配だったのはスロープの勾配でした。降りた先にワゴン車を横付けする関係で距離が限定されるため、どうしても勾配が急になってしまいます。だからこそ既製品での対応は難しかったのですが、しかし天然の木材であるウリンでは、それはそれで滑りやすくなってしまいます。その点については必ず介助の方がついて車椅子だけの自走はないということ、雨で滑ることのないようにいずれ屋根を付けることを確認した上で、上段の踊り場とスロープをウリンで、下段の踊り場はコンクリートで基礎と兼用のものを作ることにしました。介助の方のための手すりもウリンを磨き上げて万が一にも怪我の無いようにしました。

坂戸市I様邸ウリンのスロープ01

坂戸市I様邸ウリンのスロープ02


その後、ビスの増締めのために訪れた時には屋根の設置も終わっており、支障なく使用して頂いている様子も確認出来ました。
現場に合わせたきめの細かい施工が出来る事も大切ですが、身体の不自由な方には無機質な樹脂よりも、やはり温かみのある天然の木材が何より好ましいのだとか…
いろいろ悩み、考えさせられることの多かった二つの仕事でしたが、共に喜んで頂き何よりでした。

坂戸市I様邸ウリンのスロープ03


今はまた、こうした仕事をウリンの力を借りることなくやっていく算段に悩む毎日ですが、近い将来、いくつか出揃ってきた代替品、ではなくそれに勝る素材を比較紹介していきたいと考えています。



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地震のあと09 久々の現場しごと

テーマ:しごと
震災当日に施工中だった鴻巣のAさんのお宅。
新築されたのが2007年の春でした。
家内を亡くしてまだ半年ほどの頃の事で、追加のお仕事を依頼されて訪ねた今回、Aさんのお母様に当時小学生だった娘のことを心配していただき、恐縮してしまいました。

鴻巣市A様邸着工前の様子01

当時も一部の厄介な仕事だけを任せていただき、あとは資材を提供してご主人に工事をしてもらったり、住宅メーカーから支給して貰った材でご主人と共同で木製フェンスを製作したり…
手作り感のある楽しい庭がさらに成長してわたしを待っていてくれました。

鴻巣市A様邸着工前の様子03

このウッドデッキは住宅メーカーが組み立てた際、ご主人が塗装を行いました。材はレッドシーダーです。
となりのレンガ敷きも、わたしの仕事をじっと見て覚えたご主人が、後から製作されたものです。

でも時の経過で、当時力を入れられなかった部分も作り込みたくなったのと、やはり雑草対策もあって、今回のご依頼となりました。

鴻巣市A様邸着工前の様子04

鴻巣市A様邸着工前の様子02


震災の後、余震も続いていたし停電や燃料の問題もありましたが、予定していた車庫と犬走りのコンクリートだけはいつまでも型枠のままにしておけず、通勤で残り少ないガソリンのほとんどを使い切り、計画停電の合間にプラントに調整してもらいながら、何とかコンクリートの打設だけは終えました。

次はガソリンが普通に手に入るようになってから来ます!

…とは言ったものの、いつまでも仕上げに戻れないのは忍びなく、いよいよ背中にリュック、両手にインパクトドライバーと丸ノコと脚立を担いで電車とバスで行くしかないか…
本気でそう思い、Aさんにもそうお伝えした時になってようやく、ガソリンの供給が安定してくれました。

本当は1日で仕上げてしまいたかったところですが、どうしても終わらず、2日がかりでようやく仕事を終えました。

鴻巣市A様邸竣工の様子01

鴻巣市A様邸竣工の様子03

道路境界部のフェンスもご主人がとてもこだわられたところ。

枕木を立てて並べたいのだけど、どう思いますか?

既存の中古枕木やその紛い物を使うのは反対でしたのでその理由を説明したら、さすがに良くご理解くださり、二人で手分けして予算に見合う範囲の安全な枕木探しに奔走しました。

じつは現在、ウリンに代わる地球環境への負荷が少なくて安全かつ耐久性のあるウッドデッキ材を模索中で、いくつかの業者に声を掛け、震災に前後して各方面を訪ねたり、サンプルを届けてもらったりしています。
その報告はこれからまたじっくり行っていきたいと思ってますが、その中の1社が置いていった国産杉の枕木が有りました。

枕木サイズのものと角材、板材とがあり、防腐剤を加圧注入してあります。その詳細はいずれ他の製品と比較しながら紹介していきたいと思いますが、ここではそのサンプルをAさんが見てすぐに気に入り、価格も比較的安価であったため、即決となりました。
運賃を安く済ませるつもりでAさん自ら前橋まで取りに行く予定でしたが日程が合わず、やむなく私が走ったのが3月11日。震災の当日でした。おそらく、これが半日遅れていたら竣工はさらに遅れていたことでしょう。

ACQ防腐処理国産杉枕木

内緒ですが、若干過積載でした。

予算の関係で7センチ厚のものと10センチ厚のものを組み合わせて使ったのですが、地中部は直接土に触れる部分を減らすよう工夫しつつ、後で撤去交換が可能なように工夫も加えてあります。

鴻巣市A様邸竣工の様子02


震災を前後しての施工となった現場で、とても印象深い仕事となりました。

季節も冬から春への変わり目を縫うようにしての仕事で、お向かいの畑も竣工間際には春の装いに変わっていて、

畑

最後の日にはこぼれ種のノースポールが花を咲かせていました。

こぼれ種のノースポール




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昨年のしごと~小川町Y様邸

テーマ:しごと
S様邸を終えた頃には梅雨も明け、例のすさまじい猛暑の夏が始まっておりました。
暑さと戦いながら設計をし、小さなお仕事をいくつかこなす傍ら、お打ち合わせを重ねたのが小川町のYさんのお宅でした。

01着工前 縁側

最初は現況の金属製の縁台を撤去し、広めのウッドデッキを作りたいというご希望でしたが、お打ち合わせを重ねるうちにお話が外回りの生垣の撤去にまで拡がりました。

02着工前 生垣

お宅の前には調整池が拡がり、その周囲に植えられた桜の街路樹が大きく育って季節にはさぞ美しいと想像されましたが、確かにニッコウヒバの生垣が鬱蒼として外の景色を楽しめない状態でしたし、お庭の芝は元気を無くし風の通りもあまり良くなく、ヤブ蚊もいっぱいでした。

04着工前 失礼!

あ、失礼!

03着工前 エントランス



奥様のご希望はピケットフェンス。
色は白。
植栽を含めてあとはお任せ、というところで決定をみました。

が、うーん金属製のピケットフェンスは数々あるけど質感が今イチ…
木製のしっかりしたのはやはり高価。

さんざ悩んだ挙げ句、タカショーさんのe-ウッドフェンス10型の無塗装のものなら何とか手が届きそうだということになりました。
塗装はわたしたちでやりましょう!
ということに。

05完成 正面 

最初、白は汚れが目立つのではと心配もしましたが、うーんさすがは奥様のご希望に添って正解だったのは、お庭がぐんと明るくなりました。
お庭の既存の樹木も思い切り剪定しましたので庭の内側にも日差しが降り注ぐようになり(8月の施工でしたので注ぎすぎていささかバテましたが!)、風がしっかり抜けるようになり、何より、外観が見ての通りです。

06完成 ピケットフェンス

フェンスの前と後ろには今まで使えなかったドライな環境を得意とするラベンダーやタイムを中心としたハーブ類とグラス、セダム類の苗を植えました。昨年ひと夏でしっかり大きくなり今年が楽しみです。

07完成 フェンス足元

そしてウッドデッキ。
価格のこともあり、ルーフも掛かっていましたので雨の届かない部分は安価なSPF材を使い、外側の手すりや柱、幕板にはレッドシーダー材を使用しました。近頃はずっとウリンのデッキばかりを作って参りましたので、久しぶりの塗装が楽しかったです。
材料のうちに一度塗装して、施工後に切断面の塗装、完成後に仕上げ塗装と3回に分けて行いましたが、完成が9月初旬のまだ暑さの厳しい折りでしたのでお客さまのご厚意により、最後の塗装は10月半ばにさせて頂きました。
おかげで、しっかり成長した植物たちを確認することもできました。

08完成 ウッドデッキ


この夏にお近づきになったO様、S様、そしてこちらのY様…
実はその後も親しくおつき合いを頂いて、おそらくこの先も仕事を離れた交流がずっと続いていくことになりそうです。

お仕事にもお客さまにも恵まれた、昨年の夏でした。(それにしても暑かったけれど!)




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向井康治

ガーデン工房 結 -YUI-は、埼玉を起点に植物を中心に据えたガーデンデザインと設計・施工を仕事とする会社です。
ただし、面白い仕事であれば時には利益も距離感覚も忘れ去る脳天気ぶり。
だから、この仕事にはいつも様々な出会いがあります。人、植物、もの、本、言葉、音楽…。

結 -YUI- はネットワークです。
それは多彩な技術や知識を持った人々が持てる力を共有し合うこと。
人と自然界の美とが満を持して出会うこと。

わたしが文芸、農業、インド、土木、外構、アウトドアと巡ってきた先の到達点は、おそらくそれらみんなの要素を遺憾なく結集することのできる、小宇宙 「ガーデン」でした。

ガーデンデザイナーとして、ガーデナーとして、これまでの、そしてこれから先の「出会い」を余すことなくお伝え出来ればと思います。

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