田んぼの生き物調査 東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト その6 T3 番外編 追分温泉周辺の生き物 7/1
テーマ:東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト
2012/07/18 05:33
翌朝は東北大学の学生さんたちに誘ってもらい(強引に割り込み?)、早朝から近くを流れる沢のフィールドワークに参加しました。放っておいても近頃では自動的に4時に目が覚めてしまうわたしは、いつも朝食までの時間を持て余してしまうもので…
5時、宿の玄関に集合。気持のよい山の朝。
宿の側を流れる沢に降りては、手頃な石を裏返します。
最初の頃はとても小さなカワゲラ程度しか見つからなかったのですが…
ヒゲナガカワトビケラ!
体長3~4センチはあります。
クモの糸みたいなもので小石をかき集めて川石の底に張り付いていたのを見つけました。
それをほぐたらぞろぞろ出てきたのですが…
「おおっ!」
うちの娘なら絶対、ここは悲鳴です。
睡眠不足の向井助教も、弁当の買い出しに出かける前に駆けつけてくれました。しっかり休んで(十分早起きですが…)、少なくとも目の充血が治まっていたのでひと安心。
その向井さんの携帯キット。精密ピンセットとかいろいろ入っていてかっこいい。
向井さんはわれわれがさんざ探しあぐねていた生き物を、ふらっと沢に降りるとあっという間に見つけて何匹も捕獲してしまいますから…すごい。
ガガンボの幼虫!
田んぼで見かけるガガンボの優に10倍はあるかと。
沢ガニ!
そして、これはわたしが発見。
ヘビトンボというのだそうです。
「風の谷のナウシカ」では腐海の底に居たような気がします。もちろん、もっと大きい奴が。
これの成虫を調べてみたのですが…
虫ナビというサイトにリンクを張らせてもらいましたので、ご覧ください。
このやはり腐海の空を飛んでいそうな奴は、確か昔、捕まえたことがありました。子ども心にもこの世のものと思えないその姿に、恐怖を越えて感動すら感じたことを覚えています。
いったん宿に戻って温泉に入り、次にひとり出直したわたしは雨の中の今度は植物のフィールドワークでした。
山の草花たちも今が花盛りでした。
本当はここのところは流すところではないのですよね。
雨の中の慌ただしい峠道の散策でしたが…
しっかりと木イチゴだけは収穫しました。
ちょうど完熟して触れるとぼろぼろとこぼれ落ちる果実は、ちょうど今が食べごろ。
とても甘いその実は調査チームのみなさん全員で分け合ってもまだ十分なほどありました。
田んぼの生き物調査 東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト その5 T3 石巻市北上地区 6/30
テーマ:東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト
2012/07/16 06:15
三度目の調査は石巻市の北上川左岸側に拡がる水田群から。
北上川は今回の震災で津波がはるか50キロまで遡ったと聞きます。特に河口から13キロまでに堤防の決壊が相次ぎ、その中でも右岸須賀地区は広範囲にわたって水田地帯が水没し、今でもそのほとんどが干潟のままとなっているそうです。残念なことに児童74名が犠牲になった大川小学校もこの場所に位置します。
上流の石巻市街地側から調査地に向かう途中の写真。
道路は左岸側の堤防の上を走りますが、復旧されて真新しい土手が痛々しい。
これが今回の調査地です。同じ北上地区に堤防を越えた津波に浸った水田と、かろうじて被災を免れた水田とが混在しています。
そのうち午前は被災しなかった対照水田の調査。
今回は東北新幹線の古川駅が集合場所で、そこから1時間半ほどを3台の車に分乗して移動しました。天候はくもり。時々強い日差しも射しましたが風があって快適な一日でした。
いつもどおり向井助教から調査方法のレクチャーを受けて調査開始。
昨夜は準備でほとんど眠っていないという向井さんの眼は赤く充血していて見るからにお疲れの様子ですが、これもいつもどおりの元気さで分かりやすい説明をしてくれました。
前回の仙台今泉地区の調査ではうじゃうじゃ居たタマカイエビがすっかり鳴りをひそめて、
こちらでfは、同じ仲間でも形がやや楕円のカイエビが主役でした。
他にはチビミズムシや、
ヒメモノアラガイなどを見つけました。
ここでも和気あいあいと、泥の中から生き物を見つけ出して分類するソーティング作業から、
資料を片手にその種類を特定していく同定作業を通じて、初対面の一般調査員はすぐに打ち解けて会話を交わすようになり、大学スタッフの皆さんとも親密になっていきます。今回の調査では東北大の学生さんが3名調査員として加わってくれました。
この対照水田から発見された種数は全部で35。わたしはそのうち14種を見つけましたが、貝(特に二枚貝?)を専門とする斉藤君は何と21種を見つけました。
調査場所がそれぞれ違うとは言え、捕獲した中に身落としたり細かな同定が出来なかったりすることがきっとあって、それがこの差になっているのかもしれませんね。わたしなどいい加減細かい生き物の見分けがつかなくなっていますから…
午後は少しばかり場所を移動した被災田を調査しました。
ここでも主役はカイエビで、
ヒメアメンボの数も多くて、一見生命の気配が少なく感じられた田んぼからは思いのほかたくさんの生き物が見つかりました。
ミズアブとか、
これはよく似ているのですが、尾が2つに分かれている左側が確かヒメゲンゴロウの幼虫で、右がフタバカゲロウの幼虫だと思います。比較するためにうっかり同じ水槽に入れて、フタバカゲロウたちはかわいそうにヒメゲンゴロウの餌になってしまいました。
こんな感じ。
やはり対照水田よりも発見種数がやや少なく、総数で29、わたしが13種でした。
午前午後を通じて発見率100パーセントがカイエビ。
午後の被災田にユスリカの幼虫が多く居たのも特徴的でした。
被災した田んぼのほうは確かに生き物がやや少ないものの戻ってくる時間はそう長くなく、潮を被ったことが生き物の生息にそれほど大きな影響を与えていないことが分かります。ただ、やはり飛翔などの移動手段を持たず、時間をかけて育っていく貝類などでは明らかに生息数に差が出るようです。
この日の宿泊地は調査場所からそう離れていない追分温泉といところでして、ここは石巻と北の南三陸町を結ぶ峠に在って、被災された方や支援に当たられた方たちの便宜を尽くしたと聞きました。
何よりも温泉は有り難く…
こうした写真を掲載するのは本意ではありませんが、この調査に少しでも多くの方が参加してくれるようスタッフの皆さんからも広報活動を仰せつかっていますので…
こんな夕食が付きます。
前回同様、スタッフの皆さんが交代で行ってくれる夜のレクチャーも、常に新しいテーマを提出してくれて3回参加させて頂いたわたしにとっても毎回とても楽しみな時間になっています。
今回はこれまでの調査結果を踏まえた報告もあって、被災した水田の復興に関していろいろと新しい研究成果が生まれつつあることが、実感としてリアルタイムで伝わって来るのでした。
次回も北上川左岸、女川地区の調査ですが、その前に番外編として追分温泉周辺の沢の生き物調査の様子もお伝えします。
北上川は今回の震災で津波がはるか50キロまで遡ったと聞きます。特に河口から13キロまでに堤防の決壊が相次ぎ、その中でも右岸須賀地区は広範囲にわたって水田地帯が水没し、今でもそのほとんどが干潟のままとなっているそうです。残念なことに児童74名が犠牲になった大川小学校もこの場所に位置します。
上流の石巻市街地側から調査地に向かう途中の写真。
道路は左岸側の堤防の上を走りますが、復旧されて真新しい土手が痛々しい。
これが今回の調査地です。同じ北上地区に堤防を越えた津波に浸った水田と、かろうじて被災を免れた水田とが混在しています。
そのうち午前は被災しなかった対照水田の調査。
今回は東北新幹線の古川駅が集合場所で、そこから1時間半ほどを3台の車に分乗して移動しました。天候はくもり。時々強い日差しも射しましたが風があって快適な一日でした。
いつもどおり向井助教から調査方法のレクチャーを受けて調査開始。
昨夜は準備でほとんど眠っていないという向井さんの眼は赤く充血していて見るからにお疲れの様子ですが、これもいつもどおりの元気さで分かりやすい説明をしてくれました。
前回の仙台今泉地区の調査ではうじゃうじゃ居たタマカイエビがすっかり鳴りをひそめて、
こちらでfは、同じ仲間でも形がやや楕円のカイエビが主役でした。
他にはチビミズムシや、
ヒメモノアラガイなどを見つけました。
ここでも和気あいあいと、泥の中から生き物を見つけ出して分類するソーティング作業から、
資料を片手にその種類を特定していく同定作業を通じて、初対面の一般調査員はすぐに打ち解けて会話を交わすようになり、大学スタッフの皆さんとも親密になっていきます。今回の調査では東北大の学生さんが3名調査員として加わってくれました。
この対照水田から発見された種数は全部で35。わたしはそのうち14種を見つけましたが、貝(特に二枚貝?)を専門とする斉藤君は何と21種を見つけました。
調査場所がそれぞれ違うとは言え、捕獲した中に身落としたり細かな同定が出来なかったりすることがきっとあって、それがこの差になっているのかもしれませんね。わたしなどいい加減細かい生き物の見分けがつかなくなっていますから…
午後は少しばかり場所を移動した被災田を調査しました。
ここでも主役はカイエビで、
ヒメアメンボの数も多くて、一見生命の気配が少なく感じられた田んぼからは思いのほかたくさんの生き物が見つかりました。
ミズアブとか、
これはよく似ているのですが、尾が2つに分かれている左側が確かヒメゲンゴロウの幼虫で、右がフタバカゲロウの幼虫だと思います。比較するためにうっかり同じ水槽に入れて、フタバカゲロウたちはかわいそうにヒメゲンゴロウの餌になってしまいました。
こんな感じ。
やはり対照水田よりも発見種数がやや少なく、総数で29、わたしが13種でした。
午前午後を通じて発見率100パーセントがカイエビ。
午後の被災田にユスリカの幼虫が多く居たのも特徴的でした。
被災した田んぼのほうは確かに生き物がやや少ないものの戻ってくる時間はそう長くなく、潮を被ったことが生き物の生息にそれほど大きな影響を与えていないことが分かります。ただ、やはり飛翔などの移動手段を持たず、時間をかけて育っていく貝類などでは明らかに生息数に差が出るようです。
この日の宿泊地は調査場所からそう離れていない追分温泉といところでして、ここは石巻と北の南三陸町を結ぶ峠に在って、被災された方や支援に当たられた方たちの便宜を尽くしたと聞きました。
何よりも温泉は有り難く…
こうした写真を掲載するのは本意ではありませんが、この調査に少しでも多くの方が参加してくれるようスタッフの皆さんからも広報活動を仰せつかっていますので…
こんな夕食が付きます。
前回同様、スタッフの皆さんが交代で行ってくれる夜のレクチャーも、常に新しいテーマを提出してくれて3回参加させて頂いたわたしにとっても毎回とても楽しみな時間になっています。
今回はこれまでの調査結果を踏まえた報告もあって、被災した水田の復興に関していろいろと新しい研究成果が生まれつつあることが、実感としてリアルタイムで伝わって来るのでした。
次回も北上川左岸、女川地区の調査ですが、その前に番外編として追分温泉周辺の沢の生き物調査の様子もお伝えします。
田んぼの生き物調査 東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト T2 その4 七ヶ浜町吉田浜地区 6/17
テーマ:東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト
2012/07/08 01:41
朝方まで降り続いた雨もやんで、二日目は徐々に天候も回復していきました。
この日の調査は七ヶ浜町。
仙台から北東部の、松島湾に突き出した小さな半島の町です。起伏に富んだ地形で、その低い部分のすべてがかなり内陸まで津波の被害を受けたそうです。
町の水田の99%がいまだに回復の見込みが立たず、わずか1%の田んぼだけで今年は作付を行いました。その数、枚数にして5枚。
水の流れの少ない半島で、しかも多くの田んぼが低い位置にあるため、除塩に必要な水が十分に確保できないというでした。
それが今回の調査地、吉田浜地区です。
耕作地としてこのように耕起されている田んぼだけではなく…
かろうじて瓦礫の撤去だけは終えたという田んぼもまた、多くありました。
今回の調査は、したがって5枚残った対照水田と、被災水田の方はこうした場所の水たまりからサンプリングを行うことになりました。
まずはテントの設営から。
雨があがってさわやかな風が吹いていました。
この場所。
津波の被害を免れただけあって、谷が深くまで山の中に入り込んでいます。
気持ち良い風と鳴き交わす小鳥たちの声だけでなく、さらに多くの生命の気配に満ちた場所でした。
「いい処ですね」
「はい。いい処でしょ」
決まって向井助教と交わす言葉には、いつも確かな感触があります。
多くの生命が溢れる場所には濃密な空気や、植物たちの匂いが満ちていて、そこに降り立っただけでそうだと分かる何ものかが存在していて…
そこがある種のサンクチュアリであることを教えてくれるのでした。
この被災を免れた5枚の田んぼが、それでも今年作付できたわけが有って、それがこの、
豊かに水をたたえた溜め池なのでした。
それがこのテント設営地のすぐ上に有って、それもまた生命たちを育む大きな要因だったのだと知らされました。
設営地の足元のコメツブツメクサ。
今わたしがとても気に入っている花です。
さて、それでは調査開始。
まずは被災しなかった対照水田の泥採取から。
ここだけを見ればとても美しい景色で、ここにいると津波がついそこまで押し寄せたなんて信じられないほどです。
昼休みにふらりと下っていった際に、一面に広がっていた田んぼたち。
しっかりと耕起されて、地力回復のためか大豆の種が播かれていたものもありました。
それらが折から戻ってきた日差しを受けて、昨夜からの雨を天に昇らせていました。
午後からは被災水田の調査。
田んぼが要するに湿地であることを教えてくれています。
昨夜からの雨が、それでもこの場所に生き物たちの棲む場所を生み出していました。
これがわたしの担当した被災水田A。
まさかこの場所に生き物たちが生息するとは、少なくともそんなに多くの種が集まっているとは、とても思えませんでした。
こちらは例外的に調査対象としたすぐ近くの泉。
これはおそらく生態系回復のシーズ(種)ですよ。
そう、占部教授がおっしゃっていたのが驚きでしたが、その時のわたしはあまりに痛々しい被災水田の姿にかなり心が折れていたのでしょう。この場所からサンプリングした担当の方は後ほど、最後の最後までソーティング作業に追われることになりました。
ソーティング開始。
つづく同定作業。
なんだかね~。
生き物たちが次々登場するとついつい夢中になって、気がつけば自分のサンプルはほとんど写真に残すことなく保存を終えて、残りは田んぼに帰して、それから初めて写真を撮りそこなったことを思い出すのでした。
調査中はブログのことなんて全く頭になくなりますから。
そんなわけで、以下は他の方のサンプルです。もちろん、この中にはわたしも見つけたものも多く含まれます。
ヒメゲンゴロウ。
それと少し似ているけど、泳ぎ方が全く違うコガムシ。
なんとも懐かしい、コオイムシ。
うっかりすると植物と間違えそうなミズアブ。でもこれは、そのうちでもとてもアクティブな仲間たち。
貝です。ヒラマキミズマイマイ。
もしかしたらヒラマキガイモドキかも。(同定には裏返す必要があるのでした)
オタマジャクシからカエルへの変態の最終段階。アマガエルか?
この時期の田んぼでは、ほかにシュレーゲルアオガエルとニホンアカガエルとトウキョウダルマガエルが見つかります。
下の区画の赤いうにょうにょはユスリカの幼虫のうち有機物食のユスリカ亜科、かな。(早口言葉並みですね)
で、このものすごいのがヒメゲンゴロウの幼虫。平気で共食いしそうな連中。
その下が、なんだか優雅なマツモムシです。
これらがすべて被災田から見つかったもの。
さきほどの泉から出てきたものも多いですが、実はわたしのあの田んぼとはもはや言えなかった「湿地」からもかなりの種数を発見したのでした。
調査結果報告によれば、全体の発見種数が午前中の対照水田で40種。前日の今泉の対照水田では15種でしたから、いかにこの場所が生き物の宝庫かが分かるというものです。
しかし午後の被災水田はさらに多くて、42種。例外的に泉や水路も調査したとはいえ、その豊かさには驚かされました。
この七ヶ浜町での調査によって、わたしの生態系に対する認識は大きく変わりました。
生き物たちによる生態系回復のスピードは思いのほか早いのではないか。
その生き物たちを養うのは、その場の水質や土質、気温や湿度や風の流れや日当たりとかいろいろな条件はあるだろうけれど、結局のところもっと巨大な空間そのものではないのか。
空間の質というのが適切かどうか…
だから少なくともわれわれはその空間の質を高める方策をこそ、学ばなければならないのだと。
それは古いイギリスのガーデナーたちによって唱えられる、
「その地の霊の声に耳を傾けよ」
という言葉にも通じ、
「良い霊(気)」の集まる場所にこそ良質なガーデンができる
という考え方に一致するものです。
8月の下旬に、わたしはまたこの七ヶ浜に戻ってくる予定です。
その時、またどれだけの新しい発見ができるか。
どんな新しい生き物たちと出会えるか。
この空間の息遣いに感応できる豊かな感性を、それまで持続して持ち続けることができるのか。
そしてまた、どんな人たちと出会う事ができるのか。
いまからとても楽しみなのです。
この日の調査は七ヶ浜町。
仙台から北東部の、松島湾に突き出した小さな半島の町です。起伏に富んだ地形で、その低い部分のすべてがかなり内陸まで津波の被害を受けたそうです。
町の水田の99%がいまだに回復の見込みが立たず、わずか1%の田んぼだけで今年は作付を行いました。その数、枚数にして5枚。
水の流れの少ない半島で、しかも多くの田んぼが低い位置にあるため、除塩に必要な水が十分に確保できないというでした。
それが今回の調査地、吉田浜地区です。
耕作地としてこのように耕起されている田んぼだけではなく…
かろうじて瓦礫の撤去だけは終えたという田んぼもまた、多くありました。
今回の調査は、したがって5枚残った対照水田と、被災水田の方はこうした場所の水たまりからサンプリングを行うことになりました。
まずはテントの設営から。
雨があがってさわやかな風が吹いていました。
この場所。
津波の被害を免れただけあって、谷が深くまで山の中に入り込んでいます。
気持ち良い風と鳴き交わす小鳥たちの声だけでなく、さらに多くの生命の気配に満ちた場所でした。
「いい処ですね」
「はい。いい処でしょ」
決まって向井助教と交わす言葉には、いつも確かな感触があります。
多くの生命が溢れる場所には濃密な空気や、植物たちの匂いが満ちていて、そこに降り立っただけでそうだと分かる何ものかが存在していて…
そこがある種のサンクチュアリであることを教えてくれるのでした。
この被災を免れた5枚の田んぼが、それでも今年作付できたわけが有って、それがこの、
豊かに水をたたえた溜め池なのでした。
それがこのテント設営地のすぐ上に有って、それもまた生命たちを育む大きな要因だったのだと知らされました。
設営地の足元のコメツブツメクサ。
今わたしがとても気に入っている花です。
さて、それでは調査開始。
まずは被災しなかった対照水田の泥採取から。
ここだけを見ればとても美しい景色で、ここにいると津波がついそこまで押し寄せたなんて信じられないほどです。
昼休みにふらりと下っていった際に、一面に広がっていた田んぼたち。
しっかりと耕起されて、地力回復のためか大豆の種が播かれていたものもありました。
それらが折から戻ってきた日差しを受けて、昨夜からの雨を天に昇らせていました。
午後からは被災水田の調査。
田んぼが要するに湿地であることを教えてくれています。
昨夜からの雨が、それでもこの場所に生き物たちの棲む場所を生み出していました。
これがわたしの担当した被災水田A。
まさかこの場所に生き物たちが生息するとは、少なくともそんなに多くの種が集まっているとは、とても思えませんでした。
こちらは例外的に調査対象としたすぐ近くの泉。
これはおそらく生態系回復のシーズ(種)ですよ。
そう、占部教授がおっしゃっていたのが驚きでしたが、その時のわたしはあまりに痛々しい被災水田の姿にかなり心が折れていたのでしょう。この場所からサンプリングした担当の方は後ほど、最後の最後までソーティング作業に追われることになりました。
ソーティング開始。
つづく同定作業。
なんだかね~。
生き物たちが次々登場するとついつい夢中になって、気がつけば自分のサンプルはほとんど写真に残すことなく保存を終えて、残りは田んぼに帰して、それから初めて写真を撮りそこなったことを思い出すのでした。
調査中はブログのことなんて全く頭になくなりますから。
そんなわけで、以下は他の方のサンプルです。もちろん、この中にはわたしも見つけたものも多く含まれます。
ヒメゲンゴロウ。
それと少し似ているけど、泳ぎ方が全く違うコガムシ。
なんとも懐かしい、コオイムシ。
うっかりすると植物と間違えそうなミズアブ。でもこれは、そのうちでもとてもアクティブな仲間たち。
貝です。ヒラマキミズマイマイ。
もしかしたらヒラマキガイモドキかも。(同定には裏返す必要があるのでした)
オタマジャクシからカエルへの変態の最終段階。アマガエルか?
この時期の田んぼでは、ほかにシュレーゲルアオガエルとニホンアカガエルとトウキョウダルマガエルが見つかります。
下の区画の赤いうにょうにょはユスリカの幼虫のうち有機物食のユスリカ亜科、かな。(早口言葉並みですね)
で、このものすごいのがヒメゲンゴロウの幼虫。平気で共食いしそうな連中。
その下が、なんだか優雅なマツモムシです。
これらがすべて被災田から見つかったもの。
さきほどの泉から出てきたものも多いですが、実はわたしのあの田んぼとはもはや言えなかった「湿地」からもかなりの種数を発見したのでした。
調査結果報告によれば、全体の発見種数が午前中の対照水田で40種。前日の今泉の対照水田では15種でしたから、いかにこの場所が生き物の宝庫かが分かるというものです。
しかし午後の被災水田はさらに多くて、42種。例外的に泉や水路も調査したとはいえ、その豊かさには驚かされました。
この七ヶ浜町での調査によって、わたしの生態系に対する認識は大きく変わりました。
生き物たちによる生態系回復のスピードは思いのほか早いのではないか。
その生き物たちを養うのは、その場の水質や土質、気温や湿度や風の流れや日当たりとかいろいろな条件はあるだろうけれど、結局のところもっと巨大な空間そのものではないのか。
空間の質というのが適切かどうか…
だから少なくともわれわれはその空間の質を高める方策をこそ、学ばなければならないのだと。
それは古いイギリスのガーデナーたちによって唱えられる、
「その地の霊の声に耳を傾けよ」
という言葉にも通じ、
「良い霊(気)」の集まる場所にこそ良質なガーデンができる
という考え方に一致するものです。
8月の下旬に、わたしはまたこの七ヶ浜に戻ってくる予定です。
その時、またどれだけの新しい発見ができるか。
どんな新しい生き物たちと出会えるか。
この空間の息遣いに感応できる豊かな感性を、それまで持続して持ち続けることができるのか。
そしてまた、どんな人たちと出会う事ができるのか。
いまからとても楽しみなのです。