シシング・ハースト・キャッスル・ガーデンⅠ~イングリッシュ・ガーデンの旅 01 

テーマ:イングリッシュガーデン
2008年6月20日。

初日は何といきなり、ケント州のシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンを訪ねました。
イギリスでもっとも美しい庭園と呼ばれ、そのホワイト・ガーデンは数限りない後の庭園に影響を与えた素晴らしいガーデンです。
ヒドコート・マナーと合わせて、今回の旅行でわたしがもっとも楽しみにしていた場所のひとつでもあります。

ランブラーローズ

その庭園がもっとも美しいと言われる、ホワイトガーデンにランブラーローズの咲き誇る6月にここを訪れることが出来たのは、なんと幸運なことでしょうか。

ホワイト・ガーデン

この庭園を作り上げたのは文学者であったヴィタ・サックヴィル・ウェストと、その夫のハロルド・ニコルソン。
廃墟となっていた城館を購入し、夫のハロルドが庭園全体のデザインを受け持ち、妻のヴィタが植栽プランを立てました。モデルとされたのは後ほど訪れるコッツウォルズのヒドコート・マナー・ガーデンであったと言われています。

シシングハースト・キャッスル

イングリッシュ・ガーデンと言ってもそのスタイルはさまざまです。
わたしは、リージェンツ・パークで「イングリッシュ・ガーデン」の案内板を見た時、本場のイギリス人が何を以て「イングリッシュ・ガーデン」と呼んでいるのか興味を抱き、出掛けていったことがありました。
そう、それは池があり丘があり、針葉樹の林のある本格的な風景式庭園でした。
なるほど…

日本ではもちろんそうした何十エーカーもあるような風景式庭園はなかなか作れるはずが無く、現在一般に「イングリッシュ・ガーデン」と呼ばれているのはもっぱらコテージ・ガーデンのスタイルであろうかと思います。

サウス・コテージ

田舎家の庭…
家屋を中心にこれといった計画性を持たずに樹木が植えられ、足元に季節の宿根草が咲き、門から玄関に至る動線の左右にはボーダーと呼ばれる植栽がほどこされ、高低も色彩も多様な植物たちが季節ごとに奔放に咲き誇る庭!

わたしが最も愛するこのスタイルを、巧みに取り入れてデザインされたのがこのシシング・ハースト・キャッスル・ガーデンなのでした。

塔

メインハウスのゲートをくぐると正面にそそり立つのが、この庭園のシンボルであり、すべてのガーデンから臨むことが出来、常に美しい背景となる塔です。
上の2枚の写真はこの塔の上から撮り下ろしたものでした。
われわれデザイナーにとっても、こうして庭園全体を俯瞰しながら庭を学ぶことが出来るのは、とても貴重でありがたいことです。

ローズガーデン

このようにして改めて写真を整理していて気付くシシング・ハーストの魅力。

そのひとつは壁面を美しく見せる技術の巧みさです。

メインハウス

レンガ積みの壁面はそれ自体が美しいのですが、そこを伝うクライマー・ローズやスイカズラ、アイビーやフジなどの美しさはどうでしょう。
美しい壁面を贅沢にも背景として使うそれらには、植物単独では表現出来ない美しさがあります。人工物と交わることでより強調される自然の美ということが、言えるかも知れませんね。

ホワイトガーデン壁面

もうひとつの魅力。
それは空間と空間を結ぶ技術の巧みさです。

コテージガーデンの先

ひとつのゲートをくぐることで違う空間に導かれ、さらに違う次のテーマがさりげなく提示され、フォーカル・ポイントの彫像に導かれて訪れた池からはまた違った風景が遠望できる…

nuttery

常に驚きと発見が連続します。
塔を中心とした凝縮され濃厚な美しさを見せるガーデンとそれを取り巻く奔放でゆったりとしたウェルダネス、それらを仕切る直線的な生垣に囲まれた通路、ヴュー・ウォーク。

オーチャード

やれやれ。

本当は1つの庭園や公園を1日ごとに紹介していこうと思ったのですが、やはりシシング・ハーストほどになると1回では無理みたいです。この調子でいくと10回くらいの連載では全旅程の紹介は終わらないかも知れませんね。

ここで少し、ひと休み。

ウィルダネスのベンチから掘にたたえられた水面を眺める老夫婦の、あの静かで穏やかな時間をいつかわたしも共有したいと願いつつ…

ウィルダネス









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向井康治

ガーデン工房 結 -YUI-は、埼玉を起点に植物を中心に据えたガーデンデザインと設計・施工を仕事とする会社です。
ただし、面白い仕事であれば時には利益も距離感覚も忘れ去る脳天気ぶり。
だから、この仕事にはいつも様々な出会いがあります。人、植物、もの、本、言葉、音楽…。

結 -YUI- はネットワークです。
それは多彩な技術や知識を持った人々が持てる力を共有し合うこと。
人と自然界の美とが満を持して出会うこと。

わたしが文芸、農業、インド、土木、外構、アウトドアと巡ってきた先の到達点は、おそらくそれらみんなの要素を遺憾なく結集することのできる、小宇宙 「ガーデン」でした。

ガーデンデザイナーとして、ガーデナーとして、これまでの、そしてこれから先の「出会い」を余すことなくお伝え出来ればと思います。

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