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フォレストサンズ長瀞キャンプ場 事のつづき

テーマ:しごと
今にして思えばその頃はすでにインフルエンザに罹り掛けていたのでしょう。
しきりと咳き込むマスクと防寒着の得体の知れない訪問者を、それでも山梨のみなさんはとても温かく迎えてくれました。

まずは本家、笛吹川フルーツ公園のアクアアスレチックを見学。
冬場で水は流していませんでしたが、なかなかの壮観で、水がない分、細部に渡っていろいろ勉強することが出来ました。で、管理事務所を訪ねると責任者の方がお忙しいのに懇切丁寧に対応してくださいました。
年間の使用水量、衛生管理の方法、メンテナンスの実際…
何もそこまで教えてくださらなくても…
でも、施工業者の記録は有りませんでした。
平成9年の着工、翌年の供用開始ですからすでに12年以上が経過しています。
ただ、メンテナンスの業務依頼の記録を頼りに、地元の建設会社さんを紹介していただきました。
そこなら、何か分かるかもしれませんよ。
電話でアポを取り、その会社を訪問。当時のことを覚えている専務さんとお話しすることが出来ました。
ただ、この会社は水路部分の施工を担当していたらしく、滝の施工は別会社であったようです。
で、教えて頂いたのが、当時の県土木事務所、今の峡東建設事務所でした。そこになら、当時の記録が残っているはずだから、と。
早速訪問した先で、しかし担当の都市計画課の方はお一人が出張、もうお一人も戻るのが18時を過ぎるとのことで…
改めて出直すことにしました。
再度フルーツ公園を見学したり、以前から訪ねたかった果樹の育苗業者さんを訪ねてプラムの苗木を調達したりするうちに体調は悪化…
ごほんごほん。
でも、18時を待ちました。
多忙そうな担当主査さんとお話しをしたものの、こちらは所詮公共性のかけらも無い一民間企業ですので、どれだけ協力して頂けるか不明でしたが、それでも熱くお願いだけはしてみました。
あのフルーツ公園の滝を、ぜひ秩父でも造りたいのです!
その気持ちが通じたのかどうか、それでも現在担当されている事業がひと段落したら調べてくださるとの言葉をいただくことが出来ました。

ながーい一日が終わって帰路に就く頃には雪もちらつき始め、遅くに戻ったわたしは…寝込んだのでした。

一時は39度を越えた熱がようやく納まって、それでもたちの悪い咳がまだ続いていたそれから一週間ほどした頃でしたでしょうか、峡東建設事務所の主査さんからお電話を頂きました。わたしはベッドの中でした。
「滝を手がけた業者がわかりましたよ!」
「え、本当ですかぁ…ごほんごほんごほん」
記録がなかなか見つからず、それでも当時の担当者が何とか分かったのでその異動先に連絡をとったところ、その当時の担当の方が業者名を記憶していたとのこと。試しにその会社のホームページを調べたら、例の滝が施工例として紹介されていました、と。
体調不良のわたしは気持ちが弱くなっていたのでしょうか…思わず涙ぐみながら主査さんに何度も何度もお礼を言いました。
どう考えても本来の業務ではなく、担当地域の公共工事を請け負ったことも、この先請け負うこともない他県の民間企業のために、そこまで骨を折ってくださる県土木の担当の方は普通居ません。これはとても希有な例であるとは思いますが、やはり山梨の方の温かさなのだと、わたしはしみじみ思いました。

そうとなればいつまでも寝込んでおれません。まあ、この間も実際は時々現場に出ていたので病気をこじらせていたのですが…
擬岩工事の専門業者、OSL社さんに連絡を取り、担当者と会って施工の詳細を聞き出し、見積もりをあげて貰うためにまず数量を拾い出すことになり…

そのあといろいろな曲折を経て滝と流れと池はその規模を縮小し、滝と池だけになったのですが、これがその1/20スケールのモデルです。ひと晩寝ないで製作した物です。

まず、コンクリートの躯体。ポンプで揚げた水を上部の水槽に貯めてオーバーフローさせます。

滝モデル 躯体

そして、その周囲をハンドカービング工法で作り込んでいきます。
池にはスタンプコンクリートで砂浜を再現、水の流れを作るために中島を作りますが、ここはちょっとしたステージにもなる筈です。

滝モデル 疑岩イメージ

その背面。
メンテナンス用の昇降施設とカムフラージュのために植栽も施しました。
会議までに乾かす時間が無く、彩色はあきらめました。

滝モデル 疑岩イメージ背面

このモデルを使って設備屋さんと打合せをし、その上でOSL社さんと話し合いCGイメージを製作してもらったのがこれ。

滝イメージCG

表面の仕上げは柱状節理パターンにしてもらいました。

そして先日出来上がってきたモデルがこれです。

滝モデル 修正

現在、現地では地下貯水槽の施工に入っているとの報告がありました。

キャンプサイトも下水工事が完了して現在は給水とガス配管の最中の筈。

フォレストサンズ長瀞 造成

先頃はわたしが見つけてきたメタセコイアとメタセコイア・オーレアが納品され仮植えをしたところです。

メタセコイア搬入

さて、お楽しみはこれから。
夢を見ることをやめれば、その時からわれわれの仕事は失速します。
そのことを肝に銘じ、まだまだ厳しい状況ながら最善を尽くしていきましょう。

後ほどまた、報告させてください。



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フォレストサンズ長瀞キャンプ場 事の始め

テーマ:しごと
先日より川越のK様邸のお仕事が始まりました。
昨年7月から打合せを重ねたガーデン・リフォームで、初めてのお子様(しかも双子ちゃん!)のご誕生などもあってこの時期からの施工となりました。着工日が、急きょ決まった奥様の退院とも重なって幸先の良いスタートとなりました。
が、何せ片道1時間45分の長丁場で、またまたブログを書く時間が無くなりそう。

そして、それと同時進行で進めているのが秩父の長瀞にこの夏開業予定の新しいキャンプ場、「フォレストサンズ長瀞」です。
こちらはコンサルタント業務ですが、もとよりご存じの通りセンセイ稼業に徹することが下手な人間ですので、今月から始まる植栽作業ではつい身体が先に動いてしまいそう。
掛け持ちは苦手なので、どこかでしっかり日数を絞って取り組んでいきたいと思っています。

で、そのフォレストサンズ長瀞キャンプ場について…
いや、それ以前にわたしとキャンプ場との関わりについて。

もともと以前在籍した会社でふたつのキャンプ場の開業に関わった経緯がありました。

ひとつが秩父温泉満願の湯に隣接する「満願ビレッジオートキャンプ場」。

満願ビレッジオートキャンプ場

それ以前に務めていた土木会社からの出向先でガーデン工事と同時に最初に取り組んだのが、この自社物件でした。

初めてのキャンプ場。それもトレーラーハウスを中心とした…
戸惑うことばかりでしたが、全体のレイアウト、植栽計画、ルーフデッキとレンガバーベキュー台の施工、さらには管理人の一人として(ガーデン工事の合間に!)キャンプ場の運営、メンテナンスとなかなか貴重な体験をさせてもらいました。

そして4年を経た独立開業の年、ふたつめのキャンプ場が開設。
こちらはテントサイト主体で荒川の河畔の広いキャンプ場でした。
この「ウォーターパーク長瀞」では林間の遊び場を設計、製作しました。

ウォーターパーク長瀞

そして、その会社から独立して5年ぶりに今度は3つ目のキャンプ場の話が舞い込みました。

去年の11月のことでした。
かつての同僚から突然連絡があり、新しいキャンプ場のデザインの相談を受けました。
今回はトレーラーハウスを19棟。ゆったりとしたサイトデザインをして、やや高級感を付与したいとのこと。
最初は椰子の木を多用したトロピカルなコンセプトでしたが、さすがにそれには反対させて頂きました。
夏は黙っていたってお客さんが殺到する秩父ですから、夏の演出は不要だし、秩父にトロピカルはそぐわないと思いました。
むしろ冬の集客を考えるべきで、それなら冬も美しいキャンプ場にしませんか…と。

わたしはさまざまな彩りの針葉樹を使った森を作ってみてはどうかと思いました。
少なくとも針葉樹たちなら秩父の冬の寒さに耐えられるでしょう。また、寒さに触れて彩りを深める針葉樹を幾重にも重ねることが出来れば素敵でしょう。
その森の中にトレーラーハウスを点在させる…

それが通った瞬間にずるずると深みにはまっていく自分の未来が見えた訳です。

そして、次の元同僚の依頼がこれでした。
「滝を作りたいんです。アメリカ北部のヨセミテ国立公園のイメージで…」

ウェブで見ました。
バーナム滝、ネバダ滝、ヨセミテ滝…
無茶でしょ!

でも、彼が山梨で見てきたという擬岩で作った滝はかなり参考になりそうでした。
笛吹川フルーツ公園のアクアアスレチックという施設です。

笛吹川フルーツ公園 アクアアスレチック

滝と滝の裏を巡るトンネルまでがあって、その直下に水遊び場。さらにそこから川が流れ出て、飛び石や橋、様々に文字通りの水のアスレチックが連続していきます。山梨の丘陵の上手く使った演出でした。

で、新しいキャンプ場では3メートルほどの滝を作り、そこからせせらぎを60メートルほど。終点には大きくて浅い池を模した水遊び場作ろうというプランでした。全長で85メートル。その途中にトレーラーハウスのサイトが点在する景色はさぞや見事というほかありません。

が…

いったいどれだけの予算があるというのでしょう。

ともかく、わたしは調査に乗り出しました。
天然の1枚板で3メートルの滝は無理。
かといって岩を組むのは子供連れのお客さんには少し危険。
となれば、山梨のアクアアスレチックと同様に擬岩で山を造り、川を造り、池を造れば良いではないかと考えて、わたしは体調不良の身体にむち打って、12月の寒風吹きすさぶ山梨に向かって走りました。



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昨年のしごと~ウリンのはなし

テーマ:しごと

さて、昨年のしごとの続きです。

昨年の夏、あの永遠に続くかと思えた炎天下の中で汗をしたたらせながら、3軒のお宅でウリン材を使った仕事をしました。

現在、井出さんのブログに強く啓発されてそこでもコメントをした通り、わが社はウリン材の使用を控える方向で検討を開始し、それに代わる材を模索中です。
だから決してウリン材の宣伝にするつもりはありませんが、様々な可能性を検討する過程の一つとして、ここで振り返っておきます。

3軒のお宅のうち、一軒はごく一般のお宅。
角のスミ切りを丸く収めるという手の掛かる課題を頂いた以外は従来通りの施工でした。

熊谷市Y様邸ウリンのウッドデッキ


ウリンは別名ビリアンとかボルネオ・アイアンウッドとか呼ばれ、原産国はインドネシア、マレーシアです。
樹液中に14%程度含まれるポリフェノールがバクテリアの繁殖を抑え、シロアリの害にも強く海水に対する耐久性も抜群で、一般に無塗装で30年以上は保つと言われています。
比重は1.4、圧縮強度675kg/cm2、曲げ強度1268kg/cm2…
とても重たくて強くて硬い木材です。
ビス止めの為には下穴が必要だったり、重くて扱いが大変だったり、ねじれた材の矯正が困難だったり、その初期段階で樹液中のポリフェノールを原因とするアクを滲出したり、そしてもちろん高価だったりしますが、例えばウッドデッキの材料としては最高だと思います。
経年変化の退色の具合も良いし、なめらかな肌触りも良いし、なによりその重量感と質感が捨てがたい魅力です。

そう。
その供給に問題さえなければ…

わたしは現在ある輸入業者と取引して、そこからウリンを入れてもらっているのですが、昨年、その担当者に現地の状況…つまり、伐採後の森林再生はどの程度進んでいるのか、供給過多による弊害は発生していないのか、今後も安定的な供給は可能なのか、その辺を報せて欲しい、何なら現地を見に行きたいと伝えました。
…残念ながら明確な回答はまだ戻ってきていません。
それが確実にマレーシア産のもので、間違っても輸出禁止措置をとっているインドネシアから流れてきたものではないとの報告だけは受けていますが、さて、今となれば…

安定供給の点でも、現在中国が急速な経済発展を背景に大量の買い付けに乗り出しているのだとか…
日本でも公共事業や大手デベロッパーによる大量利用が進んでいる昨今、年間数m3程度のわが社の動向などとは関係なく、現地では確実に森林破壊が進んでいるのだと思います。

もしこうした問題さえなければ、耐久性の高い天然の木材を使って、その冬暖かく夏も裸足で歩ける柔らかい質感をお客さまに楽しんでもらいたいというのが、わたしの強い願いです。
わたしのお客さまはお子様のまだ小さな若いご夫婦がほとんどで、当然のように共働きで朝早くから夜遅くまで留守にされるお宅が多いものですから、定期的なメンテナンスを要する材は勧めにくく、またあまりに高価なものも使いにくいのが現状です。
工夫に工夫を重ねて手間などの原価を抑え、ようやく樹脂材よりやや安い価格でウリン製のウッドデッキを提供出来るようになったのに…

先の井出さんの記事はしかし、わたしには決定打でした。
やはりこれからはウリンは使えないなと、考えさせられました。

…勉強不足と言えばたしかに勉強不足で、もっと早く気付くべきところでしたが、その結果わたしの手によるウリンのウッドデッキを手に入れられたご家族がある訳で、その方たちの幸せまでこのことで否定することは勿論できません。逆に、多くの犠牲を経て手に入れたそれでもし満足してもらえないのであれば、わたしにはこの仕事を続ける資格はないと思います。幸い、どのお客さまにも喜んで頂いていますし、先に紹介したように目一杯それで楽しんでおられるSさんご一家みたいなご家族もありますから…


と言うわけで、もう2軒の仕事を報告させてもらいます。

共に福祉関係の事業所からのご依頼でした。

1軒目はお仕事場の医院と立て直されたお住まいを結ぶ動線にあるステップの改修工事でした。
狭くて様々な設備があり、段差もある場所です。

熊谷市I様邸着工前

高齢になられ、足腰もやや不自由になられたお客さまが毎日数度往復されるのに、現状の小さいステップでは余りに狭く段差も大きすぎると言うことだったのですが、かと言って既製品でこの場所に納まるものが無い。雨風にさらされるこの場所で木材を使ってもし腐りでもしたら、かえって危険な物になってしまう…
いろいろ悩まれた事業所さんがわたしの以前の仕事をご覧になる機会があり、相談を持ちかけられたのでした。
なんとか、あのウリンを使って広くて安定したステップは作れないだろうか。できれば、雨水桝を覗く点検窓も欲しいし、いざとなれば移動可能な物にしてほしい…

そして悩みながら現場合わせで作ったのが、これでした。

熊谷市I様邸ウリンのステップ

3つのパーツを組み合わせていざとなれば分解可能とし、点検扉を開けると雨水枡の蓋もきちんと外せるように作りました。ウリンの重さが安定感を出し、耐久性も抜群です。このあと建物の壁に手すりも取り付けて使って頂きましたが、行き来がとても楽になったと喜んで頂けた様子です。

もう一軒は居室の掃き出し口から直接車椅子で外に出るためのスロープのご依頼でした。
これも既製品では対応しきれず、仮にあったとしてもとても高価でこれまではあきらめて、ぐるりと遠い玄関を回られていたのだそうです。

坂戸市I様邸着工前

設計するにあたり、心配だったのはスロープの勾配でした。降りた先にワゴン車を横付けする関係で距離が限定されるため、どうしても勾配が急になってしまいます。だからこそ既製品での対応は難しかったのですが、しかし天然の木材であるウリンでは、それはそれで滑りやすくなってしまいます。その点については必ず介助の方がついて車椅子だけの自走はないということ、雨で滑ることのないようにいずれ屋根を付けることを確認した上で、上段の踊り場とスロープをウリンで、下段の踊り場はコンクリートで基礎と兼用のものを作ることにしました。介助の方のための手すりもウリンを磨き上げて万が一にも怪我の無いようにしました。

坂戸市I様邸ウリンのスロープ01

坂戸市I様邸ウリンのスロープ02


その後、ビスの増締めのために訪れた時には屋根の設置も終わっており、支障なく使用して頂いている様子も確認出来ました。
現場に合わせたきめの細かい施工が出来る事も大切ですが、身体の不自由な方には無機質な樹脂よりも、やはり温かみのある天然の木材が何より好ましいのだとか…
いろいろ悩み、考えさせられることの多かった二つの仕事でしたが、共に喜んで頂き何よりでした。

坂戸市I様邸ウリンのスロープ03


今はまた、こうした仕事をウリンの力を借りることなくやっていく算段に悩む毎日ですが、近い将来、いくつか出揃ってきた代替品、ではなくそれに勝る素材を比較紹介していきたいと考えています。



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向井康治

ガーデン工房 結 -YUI-は、埼玉を起点に植物を中心に据えたガーデンデザインと設計・施工を仕事とする会社です。
ただし、面白い仕事であれば時には利益も距離感覚も忘れ去る脳天気ぶり。
だから、この仕事にはいつも様々な出会いがあります。人、植物、もの、本、言葉、音楽…。

結 -YUI- はネットワークです。
それは多彩な技術や知識を持った人々が持てる力を共有し合うこと。
人と自然界の美とが満を持して出会うこと。

わたしが文芸、農業、インド、土木、外構、アウトドアと巡ってきた先の到達点は、おそらくそれらみんなの要素を遺憾なく結集することのできる、小宇宙 「ガーデン」でした。

ガーデンデザイナーとして、ガーデナーとして、これまでの、そしてこれから先の「出会い」を余すことなくお伝え出来ればと思います。

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