田んぼの生き物調査 東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト その3 T2 勉強会 6/16

テーマ:東日本グリーン復興モニタリングプロジェクト
 
 時間が足早に駆け去っていく音が耳に聞こえるようです。
 バタバタバタバタ…走る

 おそらくはその速度がそれほど速くなっている訳ではなく、
 ついて行くわたしの歩行速度の方が遅くなっているだけなのでしょうが…

 先日、この回のさらにその次、石巻での調査が終わりました。
 現在はさらにその次の調査の準備中。
 このままいつまでたっても最新の報告が出来ないという…まるで、ブログの体をなさないものになってしまいそうで、それが怖いです。

 さて。

 前回に引き続く6月16日のこと。
 多賀城のホテルに戻って入浴と夕食の後、会場を研修室に移して勉強会が開催されました。
 大学スタッフのみなさんは本当にお疲れのところ、風呂に入る間も惜しんでデータをまとめられていたりしていて…本当に頭が下がる思いで参加させてもらいました。
 (その割にしっかりビールとか頂いてしまっていましたが…あ、ここだけのハナシ)

 ここでの要点は3つ。

 今回の調査の意義とそれが市民参加型で行われることの意味。
 田んぼの生き物たちの生きざま、暮らしぶりの実態。
 今回の調査結果とそこから見えてきたもの。

 
01 占部教授と向井助教


 占部教授による最初のレクチャーはとても興味深く、内容の深いものでした。

 
03 海と田んぼからのグリーン復興宣言


 「海と田んぼからのグリーン復興宣言」

 (以下、抜粋です)

 今回の被災地の多くはこうした生態系の恵みを最大限に利用する生活をしてきた地域です。

 今、できるだけ早い復興は共通した願いですが、環境への影響評価を行うことなく、早急に山や森を削り、川や海、そして田んぼの生物多様性や生態系への配慮のない造成は、生態系サービスを低下させて、被災地以外にも多くの二次的な災害を生み出しかねません。

 …この地の農林水産業が享受すべき将来の生態系からの恵みを見据え、…「グリーン復興」を行うことで、…より着実に、力強く復興すると信じます。

 そして、…ひとりひとりの市民として、その計画から積極的に関わり、一緒に支えていくことを宣言いたします。


 この宣言を受けてこれまでに行われてきた活動。

 津波被害からの田んぼの復元。
 瓦礫の撤去と除塩。瓦礫撤去は田んぼの層構造を傷めないように人力で行ったそうです。

 産業復興支援。
「東北サイコウ銀行プロジェクト」による「福幸米」の販売により、農業再開資金を捻出したそうです。

 そして、生態系モニタリング。
 今回の活動では、それが田んぼと干潟、松島湾島嶼において展開されています。

04 なぜ生物モニタリングが必要か


 生態系を調査することで、津波被害の実態を把握し、被害から免れた自然を生態系再生の種(シーズ)としてその活用を図り、地域再生の突破口としたいという熱い思いがここでは語られていました。

05 すべての生態系をモニタリングすることは不可能1


 でも、それは長期にわたって広範な調査が必要とされるに関わらず、人的資源も経済的資源も不足しているという現実があります。たしかに被災地全体で取り組まなければならない課題はあまりにも多く、こうした個々の活動に対してそれがどんなに意義深いと分かっていても、なかなか振り分けるのは難しいのでしょう。

 だから、市民参加型。

 それにはまた別の意味もあります。

 どれだけ研究者ががんばってその成果をまとめても、それが公のものになるまでにはかなりの年月を要します。かなりの年月を要しても、最後まで公開されない成果もあります。
 だからわれわれ市民が、その調査に最初から関わって、しかもそのつどその研究成果に触れることで、それこそ口コミ的に情報が伝達されていく…
 と同時にそこで見つけ出した一定の知見にその場で評価を与え(学会などという面倒くさいものの判断を待つことなく)、共通の認識としての合意をその場で生み出していける。
 そうした意義があるのだそうです。

00 レクチャー風景


 では、はたして全くの素人の調査がどれだけの成果を生み出せるというのか…
 これは当初からわたしが抱いていた疑問でした。
 研究者の皆さんが一般参加者の指導と世話に追われ、慣れない一般市民の面倒を見ている間に、研究者だけで調査を進めた方がはるかに信憑性のあるデータが集まるのではないか?
 グリーンツーリズムの意義はわかるし、実際参加してとても楽しいけれど、それはやはり所詮参加者の満足を優先した、研究者にとっては二義的な活動なのではないか?
 という風に。

 その疑問にも占部教授は力強くその意義を語ってくださいました。

 この12名が1日6枚、2日で12枚の田んぼに散ってそれぞれ違う技能と条件でサンプリングを行ったデータは、研究者が数日を掛けて行う調査に十分匹敵するだけの有効性がある。
 また、そのデータを使いこなすことこそが研究者の使命なのだ、と。
 そして、市民参加型調査の「成果の迅速な普及」と「合意形成の基盤作り」は、研究者だけではできないのだ、と。

 水生生物の中には3年かけて成熟していくものがあり、その過程を3世代に渡って追わないと十分な研究成果を生み出せない。だからこの調査には10年の時間が必要、ともおっしゃっていました。

 …おそらくその時間軸は、これから復興という大事業に取り組んでいくこの地域の人々の持つ時間軸に、等しいのだと思います。


 占部教授のレクチャーはさらに進み、環境の安定性と撹乱(今回の津波がそれです)、種の絶滅の仕組み、捕食と被食防衛、攻撃防衛など、生き物の生態に関するとても面白いお話を伺うことができました。

 そして、

09 新「三陸国立公園(仮)」を軸にした地域の復興


 新「三陸復興国立公園」構想と、そこからの地域復興に話は及びます。
 今回の田んぼのモニタリングもその一環として明確に位置付けられているということでした。

08 水田モニタリング


 今回の調査区域はこのとおり。初回が東松島の鳴瀬、小野、矢本地区。今回の2回目が仙台市近辺の若林区今泉地区と七ヶ浜町吉田浜地区。そして3回目が(先日の6/30、7/1に行ってきたのですが)石巻の北上川左岸地区です。田んぼが夏に一度水を抜く「中干し」期間を開けて、8月に再度それぞれの田んぼの調査を行う予定だそうです。

 そして田んぼの生き物についてはそのエキスパートである向井助教がたくさんの面白いお話を聞かせてくれたのですが…

 できればその話、向井助教の人柄と情熱を感じながら、直に聞いてもらいたいと思います。
 大阪の水田で7000を超える水生生物にマーキングして放し、3年間かけてその追跡調査をした話などはっきり言って…圧巻です。

 
11 田んぼの特徴


 田んぼとは…
 「あぜで区切られた、水を溜めることのできる農地」であり、
 
 人の手で強度に管理された一時的な「湿地」なのだそうです。

10 田んぼの水暦


 この人工的に1年サイクルの環境変化が繰り返され、代掻きや潅水といった攪拌が繰り返される水田という湿地を選んで、そこで暮らす生き物たち。
 向井助教だけでなく、われわれもその生態には思わずのめりこみたくなりそうです。…わたしだけかな?


 そして、最後にその日の調査結果をまとめた占部研究室の鈴木さんからの報告がありました。

16 調査結果報告担当の鈴木さん


 この前の報告でも書いたとおり、午前中の対照水田(被災しなかったけれど比較のために調査する田んぼ)よりも被災した田んぼのほうが、生き物の種類が多かったという結果です。

17 捕獲した種数


 前回の東松島では被災田の方の種数が少なかったですから、2回目にして逆の結果が出たことになる訳で…
 まだまだデータを集めなければ分からないと言え、いろいろ考えさせられて楽しいですね。
 対照水田のドジョウ、被災水田のタマカイエビ…
 被災水田に成虫が飛翔して移動できる生き物が多いのは分かるのですが、タマカイエビは違います。
 聞けばカイエビやタマカイエビの仲間は耐久卵という、乾燥に強く環境が改善されるまで長期間にわたって休眠できる卵によって孵化するのだということでした。

 だから、津波と、そのあとの乾燥に耐えた後、今一斉に孵化したのでしょうか?
 そう言えば先日の石巻の水田ではうじゃうじゃとカイエビが居て、しきりに交尾を繰り返していました。
 
 …何かね、生命の持つダイナミズムみたいなものを感じさせられた瞬間でした。


 (さらに続きます! 2日目の七ヶ浜の調査は…とても楽しかったです)

 

 

















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向井康治

ガーデン工房 結 -YUI-は、埼玉を起点に植物を中心に据えたガーデンデザインと設計・施工を仕事とする会社です。
ただし、面白い仕事であれば時には利益も距離感覚も忘れ去る脳天気ぶり。
だから、この仕事にはいつも様々な出会いがあります。人、植物、もの、本、言葉、音楽…。

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それは多彩な技術や知識を持った人々が持てる力を共有し合うこと。
人と自然界の美とが満を持して出会うこと。

わたしが文芸、農業、インド、土木、外構、アウトドアと巡ってきた先の到達点は、おそらくそれらみんなの要素を遺憾なく結集することのできる、小宇宙 「ガーデン」でした。

ガーデンデザイナーとして、ガーデナーとして、これまでの、そしてこれから先の「出会い」を余すことなくお伝え出来ればと思います。

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