ヴォーリズ作品にふれて
皆さん、ウィリアム・メレル・ヴォーリズという人物をご存知でしょうか?
昨年5月24日(日)NHK 日曜美術館で放送された「建物の品格 建築家ヴォーリズの”愛される洋館”」をご覧になられた方も多かったのではないでしょうか。
私も、その日の午前、友人(とても優れた審美眼の持主です)から、1通のメールが届き、「この番組を見て涙した。ぜひ再放送で見るように」と教えてもらったのが、この建築家を知ることになったきっかけでした。
ここで、このヴォーリズについて簡単に紹介しておきます。
1880年アメリカ生まれ、明治38年24歳の時にキリスト教伝道のため、英語教師として来日。熱心な伝道活動が、当時仏教徒の多い地元の人たちの反発を招き、2年でその職を解かれる。その後、以前から自分の夢でもあった建築家の道(建築家の専門教育は受けていない。アマチュア建築家として)を歩み出す。明治41年建築事務所を開設。滋賀県近江八幡を拠点に、明治から大正、昭和にかけて日本全国に個人宅・教会・学校・郵便局など1000を超える洋館を建てた。また、製薬会社メンソレータム(元メンターム)創立者の1人としても有名で、実業家でもあった。
NHK日曜美術館の番組を見た時の感想について話を戻す。
番組の中で印象に残ったのは、京都にある駒井家住宅の映像の様子。建築されてから80年にもなるその建物の、木枠の窓枠から射し込む陽ざしが、室内に温かい空間を造り出していた光景がとても印象的で忘れられなかった。
その後も、そこに住む人のためにそそがれた優しさのようなものに溢れる家のことが気にかかり、「1度、自分の目でこのヴォーリズの建築を観てみたい」という思いが募ってきた・・・
そこで、ようやく今年になって、この建築家の活動の拠点となっていた滋賀県近江八幡市の旧市街にヴォーリズ作品を観に行くことができました。その時の様子を、写真もまじえ少し紹介してみたいと思います。
まずは、郷土資料館。
(ここで、この界隈のイラストマップをいただき、この街のヴォーリズの建築を案内してもらいました。この建物もヴォーリズ作品です。)
次に訪れた、池田町洋館街の様子です。
ヴォーリズが近江八幡で最初に設計した3棟の大正時代築の西洋館で、ながい煉瓦の塀が続きます
(かなり古い木製の扉が今も残っています)
(煉瓦積みのアップの様子。どうですかね?)
(さらにアップの様子。当時の煉瓦はこんなだったんですね)
次に訪れたのは、アンドリュース記念館
(一見何の変哲もない古い洋館に見えますが、よく見れば目立ちすぎない装飾が観られます)
(教会の様子 電線が邪魔してますが、この街で当時どんな存在だったのかな・・・と)
その後は、ヴォーリズ記念館 幼稚園の教師寄宿舎として設計され、1931年竣工時からヴォーリズの自邸として使用されていた建物
(建物の外壁がここは木製で、白い窓枠が目をひきます。他の家でもそうでしたが、カイヅカイブキが門周辺に植えられているのが特徴のような気がしましたが・・・)
(この家の庭の様子。中まで入れなかったので見づらい写真でスミマセン)
これで今回のヴォーリス作品は、お終いです。
この近江八幡旧市街界隈の様子も少し
(およそ、洋館があるような場所とは思えない古く趣のあるきれいな町屋が続く。塀越しに見上げる大きな松の樹は、樹形も美しく丁寧に管理されていた)
(瓦での装飾が施された塀。そこには、遊び心と住むことへのこだわりが感じられる。この街の住人は玄関先を奇麗に飾り、日々の生活をゆとりを持って大切にしている方が多いように感じた。)
(近くには、観光名所としても有名な八幡堀もあり、情緒あふれる街でした)
今回の旅で、ヴォーリズの作品を実際に観て感じたのは、どれも古いものばかりではあるが、何とも言えない落ち着きがあり、存在感がある。そして、なにより「自分がそこで暮らしてみたら、どんな風になるのかな」とつい暮らしを連想してしまう独特な空気が漂っている。
こんな感覚は、現代の住宅にはあまり感じられない。
例えば、工場で機械により大量に簡単に作られてしまう製品が,我々の生活に溢れかえっているからなのか・・・ハッキリしたことは未だわからないが・・・
その独特の空気を漂わせることこそが、これからの家と庭を創りだしていく上でとても重要なことではないかと感じた。
そして最後は、これ
(この旅の思い出に、道の駅 「東近江市あいとうマーガレットステーション」で買い求めたアイアンのカエル達。今後、この3匹のカエル達は、私の家のどこかに永く住み着くはず・・・・・)
田渕義雄氏について
皆さん、田渕義雄という人物を御存知でしょうか?
信州の山里で暮らし、自給自足的菜園生活を営み、薪ストーブの愛好家であり、優れた木工家具の製作者でもあり、また、フライフィッシングの達人・・・といろんな顔を持つ自然派作家の代表的な存在。
私がこの人を知るようになったのは、NHK「趣味の園芸」テキストの2006年4月号から連載が始まった”森暮らしの庭”を、毎月読むようになってからのことでした。
以来、その森暮らしの一コマを切りとった美しい写真やスマートでクール(かっこいい)な文章で綴られた(私の生活圏とはかけ離れた)寒山の庭でのライフワークに魅了され、いつしか「趣味の園芸」は、この連載だけを読むようになっていた。そして、2008年3月号の第24回の最終回を迎えていこう「趣味の園芸」も買わなくなってしまった。
それから随分経った昨年の秋頃。
何がきっかけだったか忘れたが、急にこの連載(”森暮らしの庭”)を読み返し、さらにもう一度読み返し、その田渕ワールドに引き込まれていきました。
その後は、このクールな作家の著書が無性に気になり、その代表作ともいえる「森暮らしの家~全スタイル~」を読んでみました。
NHK「趣味の園芸」連載の”森暮らしの庭”と重複するような内容が多かったにもかかわらず、こだわりの自然生活の様子やとても印象に残る明確な思想にますます引き込まれるようになった。
その「家と庭」に対する、哲学的ともいうべき思想が深く心に響く。
造園業を始めたばかりの自分にとって、それは今後自分が進んでいくべき方向性を気づかせてくれるようなものであった。
この”庭ブロ”に参加させてもらおうと思えたのも、田渕義雄氏の影響で、現代の家と庭を取り巻く環境や関わり方に、漠然とした疑問のようなものを持ち続けている自分にとって、これらを全国の多くの庭を愛する皆さんに、問いかけてみることで、体系化され、あるスタイルを構築していけるのではないかと考えたからです。
今後、この田渕義雄氏の言葉をかりたり、現代の「家や庭」にとって、“何か足りない”、”忘れられた感覚”など、思いつく限りを全国の皆さんに投げかけて”これからの庭”について一緒に考えていきたいと願っています。
メッセージやコメントお待ちしています。よろしくお願いします。