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「原発放浪記」

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「原発放浪記」


原発推進政策に反対するささやかな抵抗。
○1980年代から2008年夏まで、足掛け10年以上にわたって全国の原発を渡り歩き、プラント建設や定期検査に従事してきた60代の元作業員が、自らの体験を「原発放浪記」(宝島社)と題した手記にまとめた。

「当時の自分は本当に無知だった。今となっては、気味が悪くてもう働けない」と振り返る。

そのワケを尋ねると―。
東京電力福島第一原発の事故後、『低線量の被ばくならたいしたことはない』と学者がメディアに話していると知り、腹が立った。専門家を名乗るなら、そんな無責任なことを言ってほしくない」

静岡県御前崎市の中部電力浜岡原すぐそばの発喫茶店で、取材に応じた川上武志さん(六四)の言葉には、健康不安を抱える”原発被ばく者”としての怒りがにじんでいた。
出身は岡山県倉敷市。
原発とのかかわりは八〇年、「協力会社」の下請け作業員として、四国電力伊方原発2号機(愛媛県)の建設工事に派遣されたのが最初。

八二年から定期点検中の原発にも派遣されるようになり、使用済み核燃料プールの除染や配管の交換工事など、放射線管理区域内で仕事をするようになった。
原発で働く作業員の被ばく履歴を、一元的に管理している財団法人放射線影響協会の放射線従事者中央登録センターが保管している記録には、東北から九州まで各地の原発計六カ所での川上さんの勤務歴とともに、作業で被ばくした放射線量が載っている。
それによると、川上さんの累積被ばく線量は二七・一七ミリシーベルト。
厚生労働省は福島原発事故に関して、作業員の被ばく線量上限を一〇〇ミリシーベルトから二五〇ミリシーベルトに引き上げた。



ただ、川上さんの数値は正確とはいえない。
なぜなら川上さんは過去、被ばく線量を測る線量計を着けずに管理区域で作業をしたことが何度もあるからだ。
定期検査中の関西電力美浜原発(福井県)で働いていた八三年のある日。
元請け会社の監督者から、首にかけていた線量計を外すよう言われた。

その場にいた同僚数人は全員、その”指令”を拒まなかった。


「定められた被ばく線量を超えてしまうと、以後、仕事が出来なくなってしまう。


私以外は、監督者を含めその時点ですでに上限ぎりぎりだった」川上さんは、数値に余裕があったが

「一人だけ拒否して、密告するのではないかと疑われるのが嫌だった」

ため、素直に従った。



その後、同原発だけでさらに四回、線量計を着けずに管理区域内で作業にあたった。

「外して作業するのは特別なことではなく、とても拒めるような雰囲気ではなかった」と話す。
川上さんが原発関係の仕事から退いた後の〇九年、大腸がんが見つかった。診断結果は『ステージ』。
手術後の経過はよいという。現在、地元の労働基準監督署に労災申請し、その結果を待っている。


○作業員を集めた安全教育の席で、講師を務めた電力会社の社員を名乗る男性が、被ばくの危険性について詳しく説明しなかったばかりか

「低線量の放射線は害ではなく、健康のためによいと言われています」

と話したことを、川上さんは今も鮮明に覚えている。

「素人を危険が伴う現場で働かせる以上、正しい知識を与えるのは必須であり、安全教育もそれが目的のはずだ。真実を語らなくてはいけない立場の人間が、とんでもないウソをついていた。なのに、当時の私は全く気付かず、素直に信じ込んでしまっていた」


「原発の運転は、定期検査時などに作業員の被ばくなしでは成り立たない。その危険性を認識していたら、あんな現場では誰も働きたがらないはず。十分な知識を与えられない人たちが支えている構図は、今も変わっていないのではないか」
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